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 ぎゅっと目を閉じてその音に集中するナセは、すぐに飛び出したい気持ちを必死で抑え、唇を噛む。
(……頑張って……!!)
 ナセの耳には鉤爪の方が優勢に響き、時々ルークの声が苦しげに聞こえてきたが、体力の限界を競うかのように長く続く金属音は、ナセをハラハラさせた。
「そういやァ聞いたぞクロコダイル! ここのところ、お前に付き添う女が居るってなァ!」
 ルークの苦しそうな笑いが響く。
(――女? 姉さん……?)
 ミス・オールサンデーを思い浮かべるナセだったが、胸がモヤモヤとする感覚に、この状況でも僅かに嫉妬をする自分に驚いた。
「それはそれは七武海様には不釣り合いな幼いガキだとなァ! ハハハハ……お前、そう云うシュミだったのか!」
 クロコダイルを馬鹿にするような物云いに顔をしかめながら、ナセはまた首を傾げる。
(ガキって……私の事!?)
「黙れ!!!」
 先程の嘲笑を含んだ声とは違い、クロコダイルの声は明らかに怒気を含んでいた。
 金属音は一際大きな音を立て、ギリギリと擦れる音がする。
「“とある筋”での情報だ……この船にも乗ってんだろう? 何処に隠しやがったか知らねェが、聞こえてんなら出て来い、女ァ!!」
 自分への呼びかけだと気付き、ナセはビクッと体を震わせ、息を飲んだ。
(私が居るのはバレてる……)
 きっと出て行かなくても、手下が探し始めるに違いない。ならば――と思うが、クロコダイルとの約束が頭を過ぎる。
「黙れ! 成り上がりの若造、今すぐミイラにされてェのか!!?」
「ハハハハ!! ミイラに出来るモンならしてみろ! 今すぐに出来ねェからそうやって鉤爪で戦うしかねェんだろうが! おれがこの剣でソイツを折るのも時間の問題だぜ!?」
 確かに鉤爪は長期戦には不向きのような気がする。長剣相手だろうから、リーチも違えば殺傷能力も劣る。
 ナセは、ギュウと手を握り締めた。
「おい女ァ! 砂ワニに剣が刺さるところなんて見た事無ェんだろう!? 出て来い、お前の男の体が剣に貫かれたところを見せてやらァ!!!」
(――っ!?)
「何を――ぐああッ!!!」
「!!!」
 クロコダイルの声が上がった瞬間、ナセは考えるよりも早く、既に手をかけていたドアの鍵を回し、外に飛び出していた。
 予想以上の暴風雨と船の揺れによろめき、濡れた甲板へ出ると、すぐ傍には大佐らしき男が血を流して倒れていた。その周りにはゴロゴロと海兵も倒れている事に気付き、息を飲む。
「来たか……おい小娘、こっちだぜ!」
「……ッサーッ!?」
 ルークの声にバッと振り向けば、クロコダイルの左腕が長剣によって、マストに磔のように刺さり、真っ赤に染まっていた。
 マストから滴る血の小流が雨によって甲板に作られる。
「やっ、血が……!」
「どうだ小娘、クロコダイルの血なんか見た事無ェんじゃねェか!? ハハッ……いい見世物じゃねェか!」
 ぐったりとしているクロコダイルを、ルークは鼻で笑う。
 片腕だけだったが動きを封じられ、その上、雨に打たれ続けているクロコダイルは剣を抜く力を出す事も難しいのか、険しい顔をしながら肩を大きく上下させていた。

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