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 海兵や海賊の声を必死に耳で追っていると、どうやら相手は新世界出身の“長剣のルーク”と云う海賊らしい。
「海軍が軍艦で“七武海”を護送するって情報が入ったからなァ!」
「――ッ!」
 ふいに海賊の声が部屋のすぐ傍で聞こえ、ビクッとドアを見つめた。
 すぐに銃声が響き、何かがドサリと倒れる音がすると、その声の主かは分からないがドアの前の気配は消えた。
 ホッとしつつも震えは止まらない。自然と呼吸が小刻みになる。
 アラバスタで海賊達の襲撃を何度も目にした事はあるが――。
(怖い……っ)
 ベッドの上で、ぎゅっと縮こまり震えているのは、何も戦闘の野蛮な音が恐怖だからではなかった。
(早く……っ戻ってきて……!)
 多くの能力者は、水が溜まっているところが彼らの“海”となるだけで“雨”は弱点にはならない。
 しかし、クロコダイルの能力は“砂”である。
 雨に打たれて鈍る判断力や視界――通常の人間でもハンデになる雨の礫を浴びると、クロコダイルの場合は力が抜けてしまうのだ。更にはロギア系の能力者である故に、普段は直接的な攻撃が通用しない彼だが、今日のような日は濡れた手が彼を掴み、濡れた剣が彼を貫いてしまう。
 そのハンデでクロコダイルが傷付く事が無いだろうか――それだけが今、ナセの恐怖心の大半を占めていた。
(もし、雨で感覚が鈍って後ろから刺されでもしたら……!?)
 クロコダイルの力は重々承知している、能力に頼らなくても実力があると云う事は、この目でも何度も見てきている。けれど、剣がクロコダイルの身体を突き刺す場面を想像しただけで、ゾッとした。
「……ッ」
 部屋の外から聞こえていた男達の声は、何となく減っているような気もする。
 どちらが優勢なのか分からない、外の状況が知りたい。しかし、自分が出て行って何か出来る訳でもなく、むしろクロコダイルの足手纏いになりかねない。
(部屋を出ないって……約束したもの)
 ――その言葉を偽るんじゃねェ。
 嘘はクロコダイルが大嫌いなものの一つだ。
 ここで大人しく、勝利とクロコダイルを待っていようと云い聞かせた時だった。
 外で一際大きな声が響き、思わず耳を澄ませる。
「クハハハハ!!」
(サーの声!?)
 すかさずベッドから飛び降り、ドアに耳を押し付ければ、クロコダイルともう一人、男の声が聞こえてくる。嵐の音で掻き消されそうになるその声を必死に追う。
「お前の実力がこんなものとはなァ、ルーク! 軍艦を襲う勇気は買ってやるが、海軍本部の大佐を潰したくらいでいい気になるなよ、成り上がりのルーキーが!!」
「黙れ! 海賊でありながら政府で身を守るたァ反吐が出るぜ! 新世界出身の力ってモンを見せてやるよ!! 大人しくブッタ斬られろ、クロコダイル!!」
「クハハハ! 雨の中じゃねェとおれに攻撃出来ないお前が“ブッタ斬る”? ――笑わせるな!!!」
 そして、剣と鉤爪が激しくかち合う音が響き渡った。
「……っ、サー……!」

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