46
(――まァ、おれァ“砂”だからな)
 クロコダイルは口にはしなかったが、それには滅法弱い事も自分で分かっている。しかし、負けるつもりも全く無い。
「だからと云ってやられるような能力にかまけたバカじゃねェ、能力者は全てを鍛え上げてこそだ。怖がるこたァ無ェ」
「……うん」
 それでも尚、心配そうに空を見つめるナセの頭を、クロコダイルはクシャクシャと撫ぜ、新しい葉巻に火をつけながら、宛がわれた船室へと向かう。
「ナセ、部屋に入るぞ。シケの前の潮風は冷えるからな」
「うん。待って、サー……!」
 二人が船室へと入り、バタンとドアが閉じた頃、甲板にはポツポツと大きな雨粒が落ち始めていた。



 航海士の予報は少々外れ、夜を待たずに大シケとなった。
「こんなに船って揺れるの……!?」
 海軍の大きな軍艦だと云うのに、大きな波と雨と風と雷には敵わない。弄ばれるように船体はグラグラと揺れた。
 ソファにしがみ付き、縮こまっているナセは、勢い良く窓にかかる雨を恨めしそうに見ている。
「船ってのは揺れるモンだぜ。間違っても甲板には出るなよ、海に投げ出される」
 行きの船で船酔いしていた事など忘れているのか、クロコダイルは余裕の表情でベッドに座り、葉巻を吹かしていた。
「怖い事云わないで! そんな事云われなくても、私絶対に部屋から出ないんだから」
 ナセはそう云うと、先程より強くソファに抱き付いた。それを鼻で笑うクロコダイルは、葉巻の灰をサイドテーブルの上にある灰皿に落とす。
「大佐サンによりゃァ、嵐は気にせず全速前進でこの海域を出ると云っていたからな。明朝、いや夜明け前にも嵐からは抜け出せるんじゃねェか」
「そっか……海も航海も好きなんだけど嵐はちょっとイヤ……アラバスタに早く帰りたいね、サー」
 強張った表情から少しだけ安堵したナセの笑みに、クロコダイルもつられるようにして口角を上げた。
「あァ……。――何も無けりゃ、それが一番だがな……」
 最後の言葉は、ナセには聞こえないように小さく呟いていた。
 砂漠の国の乗っ取り計画を企てている秘密犯罪会社社長、と云えども海賊。妙な予感はその海賊の勘だろうか。嵐でなければ何も恐れる事は無いのだが――不安要素は一つでも少ない方がいい。
「ナセ、ここへ来い」
 クロコダイルは何となくナセを傍に置きたくなり、顎で自分の隣を示した。
 ニコッと笑って頷いたナセは、ゆっくりとソファから立ち上がり、揺れによろめきながらベッドに辿り着く。そして靴を脱ぎ、ベッドの上へ上がった。
「ふふっ、サーの傍に居れば安心だものね」
「……そうだな」
 ナセはクロコダイルの少し後ろに座り込み、彼が紫煙を燻らしているのを眺める。

- 46 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -