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「――“大佐”か。帰りのお守はしねェってか」
 ここに来るまでは“中将”であるドーベルマンによる護送だったが、帰りは“大佐”によってされるらしい。
 会議の閉会の際、“天竜人”がどうとか云っていたのを耳にしていたので、きっと上のクラスの者は手いっぱいなのだろう。何日とかかる護送に、忙しい中将クラスの海兵を付けるのも野暮と云う訳だ。
「サー!」
 ガコン、と階段が外され、錨を上げる音がギリリリと聞こえてくる。それに混じって、ナセが自分を呼びながら走り寄ってくる。
「何をしてた、出航が遅れるだろうが」
「ごめんなさい、みんなと話してたらちょっとね」
 へへっ、と笑うナセにクロコダイルは溜め息を吐く。その間に船は軋み、グランドラインの帰路へと進んでいた。
 早くも霞みがかったレッドラインを振り返りつつ、葉巻を燻らせていると、ふとナセの神妙な表情に気付く。
「どうした」
 アラバスタへ帰れるとあって昨日は嬉しそうにしていたナセだったが、今は眉間に皺を寄せてクロコダイルを見上げた。
「おつるさんがね、この付近は血気盛んな海賊が多いんだって。だから気を付けなって云ってた……ほら、帰路は当分カームベルトを通らないでしょう?」
 だから危ない、とナセは云う。
 軍艦が七武海などを護送する時は、通常カームベルトを通る。その方が早く、海賊に出遭う事も無い。海賊が海軍を襲う事はまず無いが、それでも重要な人物を乗せていれば、危険性は大なのだ。
 しかし、今回は軍艦がやたらと行き交うらしく、クロコダイルの乗る船は、暫くグランドラインを進む事になっている。
「帰りはいやにいい加減だな。海軍様も天竜人には頭が上がらねェらしい」
 フン、と鼻で笑うと、ナセは一層表情を険しくさせた。
「軍艦を襲う新世界出身の海賊も、この付近にはよく出るって……今この船には、強い中将さんも乗ってないし……」
 すると、クロコダイルは片眉を上げて目を細める。
「どのクラスの海兵が乗ってるかなんざ関係無ェ――おれァ七武海だぜ?」
「そう、だけど……!」
「ナセ」
 クロコダイルは、自分の胸にも届かない背丈であるナセの頭に右手を乗せると、その目線を合わせるように屈んだ。
「海賊が怖いのか?」
「こ、怖いんじゃなくて――怖いけど! でも、それよりも……サーが居なくなるのが怖いの」
 ナセがクロコダイルのコートをぎゅっと握る。
「……おれが、そこらのルーキーや新世界出の成り上がりに負ける男じゃねェ事くらい、お前も分かってる筈だ。つるのバーさんが何を吹き込んだかは知らねェが、何も心配ねェ」
 クロコダイルの言葉に少し緊張を緩めるナセだったが、ふと頭上の雨雲を見上げ、その表情を曇らせる。
「でも航海士さんの話だと、今夜からこの海域を出るまで大シケだって……――雨、弱いんでしょう?」

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