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 その様子に、クロコダイルは何度目になるか分からない溜め息を吐いた。
「で……そのくまから聞いた話ってのは何だ」
 何も考えないようにしようと目を閉じたクロコダイルに、ナセの温もりと楽しそうな声が伝わる。
「うん! えっと、神様がね――」
(神が居るなんて信じねェが、もし居るならおれの願いを聞け……!)
 話し始めたナセの声の心地良さに反応してしまうのをグッと堪え、クロコダイルは祈った。
 無事に朝を迎えられるように、と。



 聖地・マリージョアの中心、世界政府の一角。
 開け放たれた窓から一匹の、いや、一人のワニが覗く。
 片手に持ったコーヒーを啜りながら、少し眉間に皺を寄せ、夜明け前の薄暗い海を眺めていた。
「……」
 溜め息なのか深呼吸なのか、深く息を吐いて、ワニ――クロコダイルは葉巻に火をつける。煙を吐きながら振り返ると、そこにはベッドに眠る一人の娘が居た。
 窓から入る潮風が彼女の栗色の髪を撫でてゆく。
 ベッドの温もりに、心地良さそうに静かな寝息を立てる彼女を見ながら、クロコダイルは何とも云えない気分になっていた。
 夕べ、バーソロミュー・くまから聞いた聖書の話をしてあげるからと云われ、渋々同じベッドに入ったものの、自分の理性を保つのに精一杯で、話も半分以上理解出来ぬまま、ろくに眠れず朝を迎えた。
 娘…ナセがシーツの上で動く感覚や、たまに触れてしまう温もり、間近で聞こえる眠たそうな甘い声――ナセを近くに感じる度に、全身の血が勢い良く流れていくのを感じた。
「――王下“七武海”が……下らねェ」
 そう自嘲するように呟き、豪快に煙を吐いてベッドに歩み寄る。ナセの少しクセのある髪にそっと触れると、幼い子供のような甘い香りがした。
「ナセ……」
 小さく呟けば、聞こえていない筈だが、ナセはくすぐったそうに少し微笑んだ。
「お前が……欲しい」
 柔らかい前髪をかき上げ、額に小さくキスを落とすと、ナセにシーツをかけ直す。
 そしてコートをバサリと羽織り、クロコダイルは静かに部屋を出て行った。



 ふと、ナセは目を覚ました。
 ゆっくりベッドから起き上がって部屋を見渡す。
「……?」
 寝ぼけ眼のまま部屋の時計を見ると、まだ明け方だ。隣に眠る筈のクロコダイルが居ないので首を傾げたが、こんな時間から仕事と云う事は無いだろうと、ぼんやり考えていれば、ふと鼻先を潮風がくすぐる。
 風の出所は一つだけ開け放たれている窓で、窓辺にはコーヒーカップがある。
「んー……っ」
 まだ眠いのだが気になり、ナセはベッドから降りて窓へと歩み寄る。

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