40
「――ンの野郎……!」
 ここのところ、クロコダイルが部屋に戻るのは他の七武海より遅く、ナセも退屈しているだろうとは思っていた。だが、ここは世界政府なのだし、“普通”の野郎が居ない。だから部屋を出て欲しくはなかった。長い時間独りにさせる事は躊躇う事だったが、部屋に戻った時にナセがちゃんと居る事でホッとしている自分も居た。
「まるで、おれの我儘で連れて来たみてェじゃねェか……」
 小さく首を振り、灰皿に灰を落としていると、ナセの自分を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げる。
「サー……?」
 むくりと起き上がったナセは、眠そうな目を擦りながら部屋を見回した。
 ここがドフラミンゴの部屋では無く、目の前に居るのは機嫌が悪そうなクロコダイルだと云う事で、何が起きたかはぼんやりと想像出来たらしく、顔を引き攣らせながらクロコダイルを窺うように見上げる。
「……っサー……あの、」
「おれが部屋に居ねェ間、何をしてた」
 初めから核心を突くような質問に、ナセはビクッと肩を揺らせたが、隠しても何を云い繕ってもクロコダイルの前では無駄な事なのだと分かっているので、観念したように溜め息を吐いた。
「……つまらなかったからね、部屋を出たの。それで探索していたら、会議をサボってたミホークさんとか、大きなくまさんとかと逢えてね、色々お話してたの。センゴクさんや中将さん達とも会ったし……」
「――!」
(センゴクにまで会ってたのか! あの野郎、おれと顔を合わせても何も云いやしねェ……!)
 クロコダイルが黙ったままで居ると、ナセはアッと声を上げる。
「ミホークさんとチェスをやったんだけど、私勝ったの! センゴクさんやおつるさんにも勝ったの、凄いでしょう!」
 ニコニコと笑うナセに、クロコダイルは怒る気力を失ってしまった。
(天性のタラシなのか、コイツは……!!)
 思わず額に手を当てるが、ふと思い浮かんだ事でまた顔を上げる。
「……フラミンゴ野郎とは何を話していた?」
「え? んー、あっ何だっけ……“ことはいたしてんのか”って訊かれたけど」
 思わぬ返事にクロコダイルは思い切り煙を吸い込み、ゲホ! と噎せてしまった。
「――ッ!? な……っ、ゲッホ……!!」
「でも意味が分からなかったから、海賊用語? って返したら大笑いするんだもの。私、何か変な事云ったのかな?」
 ナセは、サーは意味分かる? と首を傾げる。
 クロコダイルは安心と後悔と若干の不安で気分が悪くなり、葉巻を灰皿に押し潰すと、傍にあった水さしでコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。
「――他にゃァ何も云ってなかったのか」
「うん……? 色々云ってたけどあんまり覚えてないの……お酒を飲んだら眠くなっちゃって……でも、バレちゃった、部屋を抜け出してた事」
 ナセが悪戯っぽくそう笑うと、クロコダイルは眉間に皺を寄せてナセを睨んだ。

- 40 -




←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -