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 サラサラと静かな音、そして渇いた香りが漂い、コツコツと砂漠の王は姿を現す。
「ひでェなオイ、ドアの取り外しを頼んだ覚えは無ェぜ……フッフッフ!」
 ドフラミンゴは崩れたドアに現れたクロコダイルにも動じず、笑いながらそう云うが、クロコダイルの方は黙ったまま二人の方へ近付いてくる。葉巻を燻らせながらの酷く静かな足取りは、逆にクロコダイルの不機嫌さを表しているようにも見えた。
「フフ!! そう恐ェ顔すんじゃねェよ、ワニ野郎。偶々おれの部屋の前をうろついてたナセを見つけて、おれが相手してやってたってェのによォ……ナセの奴、暇持て余して、色んな野郎んとこ顔出してたみてェだぜ?」
 “ナセ”と、ドフラミンゴが名前を口にした事に、クロコダイルのこめかみがピクリと反応したのを見て、更に可笑しそうにピンクのコートの羽が揺れる。
「“サー”とか呼ばせてるなんたァ、可愛いとこあるじゃねェか」」
「ミイラになりたくなきゃ黙ってろ。寄こせ、クソ鳥が……!」
 やっと開いた口から出たのは、恐ろしい程静かな怒りだった。
 恐ェ恐ェ、とドフラミンゴが素直にクロコダイルの腕にナセを引き渡すと、すぐさま回れ右をしたクロコダイルはドア――否、元ドアの方へ、ナセを起こさぬようゆっくりと歩いて行く。
「フフッ、フッフッフ……!! 随分とソイツにご執着だなァ……? 珍しいじゃねェか、ワニ野郎ともあろうお方がよ」
 テーブルに置いてあったワイングラスを掴み、ソファに深く腰掛けたドフラミンゴは、その後ろ姿に殊更大きな声を掛けた。
「――だがよ、お前の“計画”に“ソイツ”はちょいとばかしお荷物じゃないのかね……?」
 その言葉にクロコダイルが足を止める。
「何の事だ」
 静かにそう返すと、面白そうにドフラミンゴの口角が歪み、ワインを一口飲む。
「……フフ、さァな! フッフッフッ! あァそうだ、もし“計画”の邪魔になるようだったら“ソイツ”をおれに預けてくれてもいいぜ?」
 魅力のある女は好きだからなァ、とドフラミンゴの手が動き、それに操られるようにクロコダイルの体がこちらを向いた。
「――消すぞ……!」
「フッフッフッフ!! そう怒るなって云ってんだろう? フフ、特別に無料で預かってやるからよ。まァ、返す保障は無ェがなァ!」
 そう云ったドフラミンゴはワインを飲み干すと、能力を解いて、大きな体を揺らせて笑う。
 その声がうるさいのか、腕の中で身じろいだナセに気付くと、クロコダイルは黙ったまま、また出口の方へ向かい、今度こそ部屋を出て行った。
 その際にバサリと音を立てて翻ったコートが、クロコダイルの返事を代弁しているようにも聞こえ、ドフラミンゴの笑い声は暫く廊下まで響き続けていた。



 自室へ戻ったクロコダイルは、ナセをベッドにそっと寝かせると、その傍の椅子に腰かけた。フー……と煙を吐きながら、ナセの寝顔を見つめる。

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