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「……立ち話も何だ、部屋に入れ」
「いいの? ありがとう!」
 こうして招き入れられたナセは、部屋をくるりと見渡す。
「ミホークの部屋とちょっと違うのね、くまさんの部屋は少し可愛い感じ」
「……ナセと云ったが、お前は鷹の目の部屋にも上がりこんだ事があるのか」
 くまが先程、聖書を読んでいたテーブルでお茶の用意をしていると、いつの間にかナセも隣で手伝っている。
「うん、サーが居なくてつまらないから探索してたの。今日もそう――会議は終わったんでしょう? だけど、サーはまだ部屋に戻ってこないし、怒られちゃうかもしれないけど部屋を出て来ちゃったの」
 成程、それで鷹の目も会議にしっかり参加していたのか……と、くまはお茶を淹れながら考えていた。もしかしたらセンゴクの所にも行ったのかもしれない。
 そしてお茶を淹れ終え、くまはソファへナセを促す。
 ナセが座ると、くまもまた体格に合わないソファに不安定に腰掛けた。
「それで、今度はおれの部屋に迷い込んだと云う訳だな」
「そう! 七武海の人にまた会えるなんて嬉しい!」
 微笑んでお茶を啜るナセを見つめながら、くまは聖書を開く。
「いつもそれを持ってるのね、サーに教えて貰ったんだけど」
「ああ……これがないと落ち着かん」
 へええ、とナセは感心したように云うと、ティーカップをカチャリと置いた。
「くまさん、良かったら私に聖書を読んで聞かせてくれない?」
「興味あるのか?」
 くまが意外そうに聞けば、ナセは肩をすくめる。
「だって、くまさんが常に開いている本なんでしょう……気になるの」
 無意識にだろうが、最後の言葉でナセは見かけの可愛らしさにそぐわぬ怪しい笑みを見せた。
 それを見て何故かギクリとしてしまったくまだったが、誤魔化すように一つ息を吐くと聖書を捲る。
 静寂が戻った部屋にまた、変わらぬ渇いた音が響く。
「――いいだろう。さて、どの話がいいか……」
 捲っている間、くまは自分が微笑んでいる事に気付いた。自分の時間を邪魔されたというのに、どう云う訳か少し楽しくなっている。
 今さっき会ったばかりではあるが、クロコダイルがこんな所まで連れて来る理由が分かる程に、不思議な魅力を持っている娘だと、くまは感じていた。
「くまさん、そんなにニヤつく面白い話なら早く聞かせて!」
「ああ……では、これにしよう」
 そう云うと、くまはナセの隣に腰掛けた。くまの体重でソファが沈み、ナセは自然とくまへ寄り添う形となる。
「よみがえられた主は――」
 選んだのは一番長い章だった。
 途中で止めにしてやろう。続きを聞きに、またお前が来るように――。

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