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 ニコリと微笑んだナセに、男は納得がいったように頷いた。
「では、ぬしがクロコダイルの連れの娘と云う訳か」
「そう! 私はナセって云うの――あなたは?」
 ナセがそう聞くと、男はテーブルに置いていた黒い帽子をゆっくりと被り、また手元の本に視線を戻してしまう。
「我が名、ジュラキュール・ミホーク」
 その名前は聞いた事ある、とナセがクロコダイルの言葉を思い出す。
「……じゃあ、あなたが“鷹の目”さん!」
「いかにも」
 クロコダイルもあまり喋る方ではないが、ミホークの言葉はクロコダイルよりも短く、会話が続かない。そして何より、世界最強の剣士と云う威厳があった。
 ナセは七武海に会えた事で胸がドキドキしてくる。世界がまた一つ広がるような気がするのだ。
「――あれ? でも、七武海のみんなは会議じゃないの?」
 クロコダイルもそう云って部屋を出て行った筈だ。終わるには早過ぎるが、終わっているなら部屋に戻らないとクロコダイルに怒られてしまう。
「下らん話し合いをする気分ではないのでな」
 ミホークは当たり前のようにそう云うけれど、そんな気分次第で出欠席するのが許されるものなのだろうか。けれど考えてみれば、七武海は曲者揃いと聞くし、皆海賊なのだから自由気ままなのは仕方無い事かもしれない。そして、海軍がそれを上手く動かすなんて無理な話なのだろう。
「ふうん……」
 ナセは、ミホークと思った以上に会話が続かないので少し暇を持て余していたが、クロコダイルと居てもナセがずっと喋っている事が多いし、あまり苦でもなかった。むしろ“間”の静寂が心地良く、今日はミホークを話し相手にしようと密かに決めていた。
「ね、何を読んでいるの? 本を読むのが好きなの?」
 ナセがそう聞くと、ミホークは少々迷惑そうに眉間に皺を寄せる。
「読んでいるのではない、開いているのだ」
「……っ、ふふふっ……!」
 ミホークの答えにナセは小さく吹き出し、その様子に気付いたミホークが顔を上げた。
「何だ?」
「ふふっ、ミホークさん……面白いね!」
 本を読まないで開いているだけって! と、ツボに入ったらしく、クスクスと笑い続けるナセをミホークは訳が分からなそうに見つめていたが、ふと僅かに口角を歪めた。
「――成程な。ワニがぬしを連れている事に納得した」
「ふふっ……えっ、なあに?」
 ミホークの呟きにようやくナセの笑いは収まるが、そんなに可笑しかったのか目元の涙を拭っている。

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