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「なァ、ナセ……?」
触り心地の良いサラサラとした髪を弄り、白い頬を撫でた。その感触に、感覚に、クロコダイルはギュウと目を閉じる。
「ハッ――らしくもねェ……」
誰も信用しない事が自らの計画遂行の為なのだ。それは分かっているのに体は正直だった。
「認めたくねェが……」
鼓動は早まる。
湧き上がる感情は抑えられない。
「……おれは、お前に……」
小さな顎を手を添え、親指でその唇をスウッと撫でる。
「ナセ――お前に、惚れてる……」
その言葉は、自分に対する大きな裏切りだった。けれど、もう戻れない。
「クソ、ざまァねェな……!」
自分の失態に、クロコダイルは自嘲のように笑った。
何度かナセの唇をクロコダイルの親指が行き来するが、クロコダイルは首を振ると、ゆっくりとナセを抱き上げた。ベッドへ向かい、そっとナセを寝かせる。
「……ん、……サー……」
ふと漏れる寝言に少し目を見開いたクロコダイルは、一瞬迷ってナセの額に口づけた。きっと唇に触れたら最後、止まらなくなる気がしたからだ。
「……」
暫くナセの寝顔を眺めていたが、口角をやんわりと上げ、ベッドを離れた。
用意してあった自分の着替えを着ると、書類を手にドカッとソファに座る。
クロコダイルは葉巻を咥え、計画への道筋が書かれたその紙を見つめながら、時折聞こえるナセの寝息に耳を傾け、朝を待つのであった。
それから航海は順調に日数を刻み、軍艦は海軍本部へ一時着港した。無事、航海を終える事の報告と、聖地に向かう為のひと準備の為らしい。
「ここって海軍本部? 初めて見る!」
ナセは窓から外を覗く。バタバタと忙しそうな海兵達の奥に、立派な建物が見える。
「あァ。面倒くせェ野郎共がわんさか居やがる」
「めんどうくさい?」
クロコダイルの言葉に、ナセは振り返る。
書類も荷物も全て片付け、あとは船を下りるだけと云うクロコダイルがソファで寛ぎながら不敵に笑う。
「大将三人組やら、イカレドクターやら、伝説の中将とやらな……対峙するとなると面倒くせェ奴らだ」
「へえ〜! みんなここに居るのね!」
興味深そうに目を輝かせ、ナセはまた窓の外を眺め始めた。
「ナセ、座ってろ。着いたっつっても、すぐにマリージョアへ出る。揺れるぞ」
葉巻の灰を灰皿に落としながら、クロコダイルがそう云うと、ナセは素直にその隣へ腰掛けた。
すると固いノックの音と共に重々しい声が続く。
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