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「……ナセ、」
 自分でも驚くくらい熱っぽい声が出て、クロコダイルは、らしくもなく動揺した。
「ん、なァに?」
 ナセが小首を傾げて自分を見上げる。その邪気の無い瞳と目が合った途端、クロコダイルは右手を瞬間止めた。
「ん?」
 右手はナセの頭を撫でていた。
「ふふっ……ふあ……」
 嬉しそうに微笑みながら、ナセは小さく欠伸をする。
(コイツは……穢しちゃァならねェんだ……)
 クロコダイルはそう自分に云い聞かす。
「眠ィんならベッドへ行け。ここで居眠りなんざしやがったら、船の揺れで床にダイブする事になるぜ」
 ナセは眠たそうな目を擦り、首を振った。
「ううん……もうちょっと、サーと居たいから」
 だからまだ寝ないの、と微笑んで、ナセはまた本に目を移す。
(畜生、煽るんじゃねェ……!)
 心の中で毒づきながら、クロコダイルは溜め息を吐く。
 ナセが何の考えもナシに云っているのは分かるのだが、それでも自分をおちょくっているのではないかと思うくらい、ナセの言葉はストレートに響いた。
 これ以上ナセの事を考えていると、いい加減自分の体が昂ってきてしまいそうだったので、クロコダイルはさっさと頭の中からナセを追い払う事にした。自分が今一番に大事にすべきなのは“理想郷”への計画なのだ。
 早速、現在の計画の進行状況はどうだったかと、クロコダイルが思考を巡らせた時だった。
 トン、とクロコダイルの脇に何かが当たる。
「――?」
 ふと見ると、ナセが自分に寄り掛かってきていた。
「おい、ナセ」
 返事は無い。
 まさかと思って覗き込んでみると、ナセは本を開いたまま、静かな寝息をたてていた。
「……寝てんのか?」
 聞いても返事が無い事くらい分かっている。この質問は動揺の表れだった。
 クロコダイルの右手はソファの向こうへ垂れているので、彼の右側に座るナセは必然的にクロコダイルの腕の中におさまる。
「ナセ、おい……おい、起きろ」
 やんわりと揺すってみるが、少し身じろぎするだけで全く反応しない。
「オイオイ、ここで寝られても困るぜ?」
 さっき“床にダイブする事になる”と云ったばかりなのだ。
 苦笑しながらクロコダイルはナセを自分の腿の上に寝かせ、その純粋な寝顔を眺めた。
「クソ……見れば見る程――」
 手を出したくなる。
 クロコダイルはギリッと歯を噛みしめた。

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