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「……何か楽になるもの――あ、そうだ!」
 急に何か閃いた様子のナセは新聞をテーブルに置くと、ドアへと駆け寄る。
「……っ、何処行く、気だ……?」
 クロコダイルの掠れた声にナセは振り返ると、その青ざめた顔に眩しい程の頬笑みを向けた。
「待ってて、いい事思いついたの! すぐ戻って来るから!」
 そう云うと、ナセはバタン!と勢いよく部屋を出て行ってしまった。
「チッ……」
 閉まったドアを見つめ、色んな事に対して舌打ちをしたクロコダイルは、よろよろとコートを脱ぐ。そしてまたソファに横になり、ナセの帰りを待った。
 ――所変わり、操舵室。
 カームベルトを通る軍艦には“海楼石”が敷かれているので、比較的安全な航海と云える。しかし、稀に海王類が船に気付いて襲って来る事もあり、油断は禁物である。したがって、操舵室は常に緊張感に包まれていた。
 航海の経過を航海士と難しく話していたドーベルマンは、操舵室のドアが音を立てて開かれると、険しい顔で後ろを振り向いた。騒がしい!! と、いつもなら怒鳴るところだったが、そこに居た人物を目に留め、言葉を慌てて飲み込む。
「居たッ! 中将さん!」
「……どうかされたか? ナセ殿」
 ナセはゼェゼェと肩で何度か呼吸をすると、乱れた髪を整えつつ、ドーベルマンに歩み寄った。
「あの、ね、お願いがあるの!」
「何だ?」
 首を傾げたドーベルマンに、ナセがコソッと耳打ちをする。それを聞き、一瞬驚いたような顔を見せた彼だったが、すぐにいつもの厳つい顔に戻り、大きく頷いた。
「いいだろう……さァ、行こうか」
 ドーベルマンに促され、二人は操舵室を出た。そこから続く船内の廊下を進みながら、ドーベルマンにはナセをチラッと盗み見る。
 整った顔立ちには幼さが残り、それは何とも云えないバランスで男心をくすぐるモノがある。綺麗な栗毛は思わず撫でたくなるし、白い肌もきめ細やかだ。自分の要求が通るとあって、嬉しそうについてくる姿は本当に子供なのだが、体つきは大人になりつつある魅力を纏う。そして“生”が一番宿る大きな瞳は、爛々としていて意志が強い女性である事を主張していた。
「――不思議な娘だ」
「え?」
 ドーベルマンの呟きに、ナセは顔を上げる。
「あ、イヤ……ナセ殿は――クロコダイルとはどういう関係か聞いてもよろしいか?」
 七武海のクロコダイルに興味は無かったドーベルマンだったが、ナセの存在については気にもなる。聞こうとは思っていなかったが気付けばそう質問していた。

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