21
「だって同じ部屋にしてくれたし、去り際に笑ってくれたもの」
 自分が怯えているのも承知で笑いかけてくれたのだと思うと、少し心も開けるかと思う。と云うか、単に顔が怖いだけなのだが。
「あの強面野郎でも、女には優しいってか?」
 そう考えると何処か面白くない。他の女へならどれだけ甘やかそうが知った事じゃないが、ナセに無造作に誰かが優しくするのは、何故だか虫唾が走るのだ。
「……訳分からねェ」
 自分の思考に顔をしかめたクロコダイルは新聞を広げると、鉤爪で紙面をブチ抜こうとした。
「ああっ、サー! 穴開けちゃったら、そこ読めないでしょっ」
「知るか」
 勝手に機嫌を損ねているクロコダイルは、ナセの抗議も気にせず新聞に目をやったままだ。
「私も読みたいの!」
「だったら左はお前が持て」
 鬱陶しそうにクロコダイルがそう云うと、口を尖らせていたナセがパッと笑顔になる。
「うん! じゃあこっちは任せてね」
 ナセは元々隣に座っていたので、ピッタリとクロコダイルの左側に寄り添った。そして、右手を彼の左腕に回し、左手で広げられた新聞の左側を持つ。
「こうすれば一緒に読める、ね!」
「……あ、ァ……」
 少々戸惑っているクロコダイルを余所に、ナセは新聞に集中し出した。クロコダイルの左肩に頭を凭れているので、完全に密着モードだ。傍から見れば恋人同士のように見えるであろう今の状況に、クロコダイルは落ち着かない。
 寄り添うナセの髪に、すぐ後ろの窓から射す陽が当たり、綺麗な光の輪が出来ている。その柔らかそうな髪に衝動的に触れたくなるが、葉巻を深く吸って盛大に煙を吐き、何とか誤魔化し、自分も新聞に集中しようと字の行列に目を移すのであった。



「……サー、だいじょうぶ……?」
「……ゥ、あァ……、……」
 十分後、クロコダイルはソファにぐたりと横になっていた。右手で顔を覆い、低く唸っている。
「具合、悪いの?」
「……別に、大した事じゃねェ……ゥッ」
「どうしよう……!」
 ナセはオロオロとソファの傍らに立ち、やっていて意味があるのか分からぬまま、新聞でクロコダイルを扇いでいた。

- 21 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -