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「……何を云ってる、お前とは別室だ」
 二人のそんな様子も構わずにナセは首を振る。
「知らないところで一人は嫌。サーと一緒がいいの」
「……」
 素直だからなのか、こういうところは頑として譲らない。そんなナセと居るようになってから溜め息の数が増えた気がするな――と、クロコダイルはボンヤリ思った。
「構わねェか、中将」
「……ああ。だが、ここが軍艦だと云う事を忘れるな」
 傷だらけの仏頂面でクロコダイルにそう云い捨てると、ドーベルマンはナセに頑張って笑いかけてから、その場から立ち去って行った。
 少しばかり顔をしかめたクロコダイルは、さっさと部屋へ入っていく。ナセもそれに続いて船室に入った。
 部屋はそんなに広くなく無駄の無い造りだったが、丸い窓からは外の景色が見える。
「わあ……船って感じね!」
 ナセは一目散に、その窓に駆け寄った。
 そこから見えるナノハナの港では、降りていた海兵達が軍艦に乗り込み、出航準備を始めている。窓のすぐ外の甲板は海兵達が慌ただしく行き来していた。
「ドーベルマンさんて云うの? さっきの怖い顔の人」
 ナセは窓の外を眺めながら、部屋の壁際に置かれたソファに座るクロコダイルに尋ねる。
「中将だ……チッ、からかいやがったな」
「え? なあに?」
「いや……何でも無ェ」
 窓からクロコダイルに視線を移すと、バツが悪そうに新しい葉巻に火をつけている。何となくそれを眺めていると、ガコンと云う大きな音と船体が軋む音が聞こえた。
「あ、もう港を離れてる!」
 窓に再び貼り付いたナセは出航した事に微笑む。船に乗るのは久しぶりだし、海へ出るのも本当に久しぶりなのだ。軍艦と云っても胸が躍る。
「出航したよ!」
「あァ」
 のんびりと葉巻を吸い、テーブルに置かれた新聞に手を伸ばすクロコダイルの横に、ナセも座った。
「あの人、顔は怖いけどいい人なのね」
「あ? ドーベルマンの事か」
 どこがだ、と片眉を上げるクロコダイルにナセはふふっと笑う。

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