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「あ?」
 軍曹にそう問われ、その視線の先――つまり自分の左腕の方へ目をやれば、いつの間に戻って来ていたのか、ナセがコートの裾を掴んで貼りついていた。
「――何してる」
「軍艦の方行ったら怖い顔の人が居たの」
 そう呟くナセは怯えるまではいかないまでも、ギュウと自分を掴んで放さない。
「さっき、はしゃいでたかと思えば……」
 クロコダイルは何とも云えないままナセを見下ろしていたが、軍曹の視線に気付くと、ナセの頭をポンポンと叩いた。
「オイ、こいつがナセだ。さっさと船に案内しろ」
「は、はい! では御二方、どうぞこちらへ……」
 クロコダイルとナセのセットが余程不可思議なのだろう。軍曹は何度か二人を見比べながら軍艦へと向かう。その間も、ナセはクロコダイルにひっついていた。
 軍艦のすぐ傍まで来ると、船へ上がる階段の前で一人の男がマントをはためかせて立っていた。その姿を見るや、ナセはヒッと縮こまってしまう。
「サー・クロコダイルだな。女が同行するとは聞いていたが、まさかそんな少女とは思わなかった」
 クロコダイルは、ハッと笑った。
「こいつを脅かしたってのはお前か、ドーベルマン。確かにお前のツラは怖ェ」
「下らん事を云っていないで、さっさと乗れ」
 ドーベルマンはナセの方をチラッと見るが、サッとクロコダイルの影に隠れてしまった。苦笑しながら階段を上る。
「部屋に案内次第、出航する。迅速に会議が始まる事を政府も望んでいるからな、急ぐんだ」
「海軍本部の将校ってヤツも楽じゃねェなァ」
 まるで心から思っていない口ぶりで、大げさに肩をすくめてみせるクロコダイルに、ドーベルマンは首を振った。
 部屋の前まで来ると、ドーベルマンは思い出したようにクロコダイルとナセを振り返る。
「この船に客室は何部屋かあるが、ナセ殿は別室にした方がよろしいか?」
 同行者と云っても男と女である。その辺りの配慮は海軍もするらしい。
 クロコダイルが、あァと頷こうとすると、コートをグイグイと引っ張られた。
「何だ、ナセ」
「私……サーと一緒がいい」
 ナセがコソッとクロコダイルに云うが、クロコダイルは思わず目を丸くしてしまう。ばっちり聞こえていたドーベルマンも、若干目が大きくなっている。

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