01
 バナナワニが優雅に泳ぐ巨大な水槽。
 それが壁となっている事務所は、アラバスタはレインベースの名所“レインディナーズ”と云う、カジノの地下にある。
 そこで仕事にあたっていたクロコダイルは、眉間に皺を寄せた。
 それは突然だった。
「ミス・オールサンデー」
「何か? Mr.0」
「そいつはなんだ」
 そいつ――背は小さく、艶やかなクセの無い栗色の髪に幼い顔立ち、芯が強そうでどこか不思議な雰囲気を纏った14歳くらいの少女――は、ミス・オールサンデーに促されて、地下の部屋へと現れた。
「ナセよ」
「そんな事を聞いてるんじゃねェ。ナセはなんだ」
 王下“七武海”――政府に従う海賊――であるクロコダイルが、静かに問う。
「私の妹、と云うところかしら」
 クロコダイルの裏の顔――秘密犯罪会社社長――の副社長を務めるミス・オールサンデーは、首を傾げながらそう云った。
「ほう……ニコ・ロビンに妹が居たとはな」
 フン、と鼻で笑う。
「拾ったのよ。それに“その名”では呼ばない約束では?」
 ミス・オールサンデーは、ナセと云う少女をソファに座らせ、お茶の支度をする。
「拾ったってーと、猫か何かか」
「この子が猫に見えて? 人間の16歳の女の子よ」
「16に見えねェガキを拾って来いと云う指令があったか?」
 声色に少しずつ苛立ちが見え、ミス・オールサンデーはクスリと笑った。
「フフ、お許しを。ボス」
 少女は二人のやり取りも、苛立つクロコダイルを気にする様子も無く、差し出されたお茶を受け取り、ありがとう、と微笑んで口にする。
「……」
 驚いた事に、クロコダイルはその様子を黙って見ていた。
 (クロコダイルが他人に興味を示している……? いつもの彼なら、この子はとっくに殺されている――)
 ミス・オールサンデーは不思議そうに、傍らのクロコダイルを見つめた。
「初めまして。私はナセって云います。ええと、上のカジノでお金を全部失くしてしまったんだけど……いろいろあって、ミス・オールサンデー姉さんに助けて貰ったの」
 少女はクロコダイルを真っ直ぐ見つめてそう云った。
 その瞳に何故だか心の奥がソワソワするのを感じて、クロコダイルは嫌悪感を抱く。
「じゃァナセ、おれが誰だか、ここが何だか分かってるのか」
「え? あなたが“七武海”のサー・クロコダイルさんである事は知ってるけど、それくらいしか。ここがどうとかはあまり興味無いし」
「――! ……クハハハハ! 興味無いか。そうだな、それが一番だ」
 クロコダイルの笑うところを見るとナセを気に入ったようだ。ミス・オールサンデーは少しホッとし、自分のコーヒーを淹れた。
「この子をしばらく傍に置いても構わないかしら」
「あァ? ――まァ構わねェ。ただ、おれの計画を邪魔するような事があれば、二人仲良くミイラだ。いいな」
「感謝します、ボス」
「ありがとうございます! クロコダイルさんっ」
 ナセの満面の笑みを見て少し面食らったクロコダイルだったが、そのままコートを羽織り、一仕事に出て行った。
 アラバスタの乾いた風を受けても、胸のソワソワはおさまらなかった。

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