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 とにかく強さを求め、そして任務の遂行能力を高めた。そうすれば、いずれクロコダイルに会える。何も考えないようにして、誰の声も聞こえないようにして、ただ盲目に強くなろうとしていたのだ。
「でもね、ある程度強くなってきたら、少し冷静になったの。こんな事をしていても、サーには会えないんじゃないかって。ふふ、我に返ったのかな?」
 首を傾げ、困ったように笑ったナセは腰の右脇に指していた銃を抜く。威力を優先し、かなり重たいものを使っていた。両手で持つと、馴染んだその重さと金属の冷たさを感じる。
「我に返って、私は自分のした事を思い出して……私は“約束を破って、ボスの計画を邪魔してしまった”って――。それで、強くなったらいずれサーに会えるだなんて、思い上がりもいいとこだよね。だから、そんな私が出来る事は、バロックワークスの社員として役に立つ事しかないって考えたの。サーに会えないんじゃないか、じゃなくて、“もう会えないんだ”って……それは約束を破った罰だと思って。会えなくてもいい、私は任務を遂行して、ボスの望みを少しでも前進させるお手伝いがしたかった」
 銃をキュッと握り、そしてベルトへと戻した。後ろの腰には短剣も差してある。任務の為に、昔の自分はとうに捨てた。
 ――けれど、唯一捨てられなかったものがあった。
「だけど、私はやっぱり……サーを感じていたかったから、存在を実感したかったから……だからもっと危険な任務が欲しいとミス・オールサンデーに云ったの。アラバスタでなくても、危険な任務を貰えれば、その分ボスの為になる、計画の一歩になるでしょう? それだけ難しくなるし、失敗すればタダじゃ済まされないけれど、それでもボスの為になるのなら、よりなれるのなら……」
 クロコダイルは、ナセから視線を外し、レインディナーズのバナナワニの方を見ていた。
(あなたを知っているからこそ、あの子はあんなに頑張ってきた……何の為に?)
 ふと、ミス・オールサンデーの言葉を思い出す。
(ナセは何の為に頑張って、独りで生きてきたと思うの!? 何の為に犯罪に手を汚して、ここまで来たと思っているの!?)
 ナセの強い意志――それは、全てが自分に向けられたものだと、ようやく思い知る。
 死にたくないからではなく、ただボスの為に、Mr.0の為に、社長であるサー・クロコダイルと云う男の為に――。
「……ビリオンズとしてアラバスタに来たけど、私、サーの姿を見る事は叶わないと思ってた。それが罰だし、期待する自分も嫌だったもの」
 会う為にここに来たのではない、重要な任務の為にここへ来たのだと、自分に云い聞かせていた。
 だけど……と、ナセはその顔を上げる。それと共にクロコダイルも再びナセへ目を向けた。
「ふふっ……会えたから……っ、……すっごく嬉しいっ……!!」
 しばらくぶりに二人の視線が重なり、ナセは嬉しそうに微笑む。
「ほんとに……嬉しくて……」
 ナセは笑みを見せながらも、その声は震えていた。手を額に当て、震える唇を噛む。
 云い聞かせていた。けれど、本当は……本当はずっと会いたかったのだ。望んではいけないとその気持ちに蓋をして、コードネームを背負い、銃を握ってきたのだから。
「名前も……コードネームじゃない私の名前、呼んでくれて嬉しかった……私の事、覚えててくれたんだ、ね……」
 クロコダイルの低い声が自分の名を辿り、自分の耳に届いた時は夢かと思った。驚き過ぎて、思わず立ちすくみ――そして、彼が傍らに立った時、心から思ったのだ。
「やっぱり、……ごめんなさい――サーの事、大好きなの」
 好きで好きで好きで。
 軍艦の中で自分の気持ちに気付いた時よりも、ナノハナで告げた時よりも、深く強くなっていたその想いが溢れ、口にしなければ苦しくて。
 そして、それが叶うものではない事も、重々承知していた。

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