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「おいおい、そりゃ本当かよ?」
「社員と話すって……その社員も誰だか気になるとこだが……興味深い話だぜ?」
 社員たちは“社内”の者の素性を気にしたり、探ろうとする事は一切無かった。知れば命は無いのは当たり前だったが、それ以上に気にしようともしなかった。彼らには、計画が達成された後の地位だけが大切だったからだ。
 しかし、ここにきて“社外”の者が、もしかしたら関係している――? と、考えた事もない仮定で、興味が湧き上がっていた。
 先程の戦闘で一応は勝利した事もあり、彼らは調子づいていたのだろう。デッキフェンスに腰掛けた“社員”の存在にも気付かずにいた。
「もしかしてよ……クロコダイルも我が社の関係者、とか……!?」
「――何の話をしているの?」
 彼らの会話中には到底耳にしないであろう凛とした声に、社員達はビクリと肩を揺らし、慌てて声のした方――デッキフェンスを見上げた。
「ふっ……副社長ッ!?」
 副社長の顔さえ知らぬ社員も居たが、知っていた社員の裏返った声に、皆息を飲む。
 フェンスの上で足を組み、まるで彫刻のように整然とした美女の佇まいに目を奪われる者も少なからず居たが、彼女の次の一言でそんな感情も吹き飛んでしまう。
「まさかとは思うけれど、社員の素性を探ろうとでも……?」
「!!!」
 整った笑みが社員達の心臓をヒヤリと掴む。
「そそそっ、そんなッ!! 社訓は絶対ですからッ……ねェ? ハハハ……!!」
 もう笑って誤魔化すしかない、と一人の社員がヘコヘコし出すと、周りの男達も「そうですよお、ハハハ」「へへへッ」と気味悪く笑い出した。
 そんな彼らに、ミス・オールサンデーはテンガロンハットに手をやり、肩をすくめた。
「……だったらすぐにアジトへ戻りなさい。先程の事件の事は、私からボスに伝えておくわ」
「さ、さすが情報が早いっすね〜。で、あのォ……おれ達への仕置きは……?」
 おずおずと質問され、副社長は癪に障るような表情で小首を傾げた。
「さあ……船も壊されたし、大事な荷も王国の護衛隊にだいぶ回収されてしまったし。結構な痛手ね」
 そう云って、ミス・オールサンデーは呆れるほど無駄のない動きでクルリと向きを変え、ハラハラしている社員達に背を向けてデッキに降り立つ。
「計画実行前でボスも気が立っているみたいだわ。謝罪の連絡は少し時間が経ってからにしたら?」
 そして、肩越しに“業務命令”を告げると、どこへともなく船から姿を消した。
 副社長の緊張感が船から消え、社員達は揃って大きな溜め息を吐いた。
「びび、ビックリしたな……」
「ああ……余計なお喋りは身を滅ぼすだけだと云いたかったんだろうよ」
 フーと冷や汗を拭いつつ、それぞれが甲板に腰を下ろす。
「さっきの奴らのせいで、船はほぼ大破、荷は減って……社員も随分減っちまった気がするぞ」
 仲間意識が無い彼らは、大概が同僚の事を“数”として捉えていた。なので「アイツが居ない」とは殆ど口にしていなかった。
「人数に関しちゃァおれ達が心配するとこじゃねェさ。ミリオンズの奴らがまた、ビリオンズに昇格して来てくれる」
 何せ社員は総勢2000人を超える。だからこそ、功績を上げる事に彼らは躍起になっており――クロコダイルが社員と話していた事などとうに忘れられていた。
「とにかくおれ達は、仕置きを勘弁して貰えるように挽回しねェと!」
 ここまで頑張ってきた事が無駄にならぬよう、計画が実を結ぶ事に専念するのみだと、社員達がウンウン、と頷き合う。
「そうだ! “理想国家建国”の為にな……!!」
 理想国家建国――その真の狙いにも気付く由もなく、そして優秀な銃の使い手が一人消えた事にも気付く事もなく、バロックワークスの社員は意気揚々とアジトへと帰っていった。

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