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 アラバスタ王国の小さな岩場は、“七武海”サー・クロコダイル、ナセ、スキュア海賊団、“秘密犯罪会社”バロックワークスの大混戦となっていった。
 そして――。
「ドス・マーノ――二本樹――クラッチ!!」
「うわッ!? 何だ、手がッ!?」
 ミス・オールサンデーも岩影から参戦し、サブミッションを仕掛けていた。
「Mr.0、あなたが“その気”なら、私もそれに応じるわ……!」
 クスリと笑ったミス・オールサンデーの視線の先には、全てを飲み込む砂嵐のように敵をなぎ倒していくMr.0、そして彼の傍を離れずに戦うナセの姿があった。



「――アラバスタの守護神のご到着か」
 クロコダイルが空を仰ぐ。
 “それ”は乾いていた空気を裂き、代わりにアラバスタ特有の熱気を帯びた風を運んだ。
「クロコダイル殿」
 アラバスタ王国護衛隊の副官である、ジャッカルのチャカ、そしてハヤブサのペルが、河のせせらぎが聞こえる岩場へと降り立った。
「海賊達が騒ぎを起こしているようだと、近くの住民から知らせがあったのだが……」
 チャカが周囲を見渡す。
 辺りには剣や銃が落ちており、海賊と見られる男共が地面に伏して呻いている。
 クロコダイルは足元に転がる鈍色の剣を、靴先でザラリと避ける。そして、すぐ傍に倒れ込んでいる男の背中に短くなった葉巻を放った。
「フン……“小物”がおれの首を狙ってきただけだ」
 全て片付けたがな、と新しい葉巻に火をつけ、煙を燻らせる。
 チャカとペルはホッと息を吐き、軽く頭を下げた。
「護衛隊隊長代理として礼を。……国王も“彼には世話になる”と仰っておりました」
「クハハ……いいさ。そのうち、礼は貰うつもりだ。たっぷりとな……」
「……?」
 何とも云えない表情を浮かべた二人を、クロコダイルは首を振りながら鼻で笑った。
「コブラに宜しく伝えてくれ」
 そう云うと、コツコツと岩場を去って行った。
「……こいつらを片付けなくてはな」
 チャカはクロコダイルが去った方を見つつ、溜め息を吐いた。
「そうだな、こんなに武器が転がっている事を“反乱軍”が知ったら……。それに、何だかこの剣はイヤな感じがする」
 ペルはしゃがみ込み、鈍く光る剣を手に取る。
「……じきに兵が来るだろうから、武器と、この者達の回収を指示しよう」
「ああ……」
 二人には知られる事なく海賊団の頭の――スキュアの乾ききった背中で、燻ぶる葉巻の火が音もなく消えていった。



「はァァァ……命からがらだったなァ」
 護衛隊が岩場に到着する前に、バロックワークスの社員らはボロボロの船で、何とか河を下っていた。
 板が剥がれ、気を付けないと下の階に落ちてしまう甲板に、ビリオンズのメンバーが傷の手当などをしていた。
「ほんとにな……何だったんだよ、アイツら……ま、おれ達が打ち負かしてやったけどよ」
 殆どを自分たちのボスが片付けた事を彼らは知らずに、誇らしげに笑う。
「そういや……さっきの戦闘の時、“七武海”のクロコダイルも居たが、何だか巻き込まれてたみてェだな? 初めて見たな、“七武海”」
 サー・クロコダイルがアラバスタに居る事は、彼らも知っていたので特に驚く事はなかった。
 自分たちにちょっかいを出してきた海賊の首を取りに来ただけだったのだろう、と考える事は出来る。が、社員の一人が「あっ」と声を上げた。
「おれの見間違いかもしれねェが、クロコダイルは社員の誰かと話してなかったか?」
「何だって……!?」
 その言葉に甲板がざわつき始める。

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