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「サーだ!」
 ナセはその音に一目散に扉の前へ駆けていく。それはまるで留守番をしていた子犬のようで、ミス・オールサンデーはクスッと笑った。
 ガチャリ、と音がして扉が開くと、誰とも確認せずにナセは“それ”に抱きつく。
「お帰りなさい!」
「……ナセ、おれじゃなかったらどうする」
 眉間に皺を寄せて葉巻を咥え、コートを翻して入ってきたクロコダイルは、呆れた顔でナセを見下ろす。
「だってこの部屋に入れるのは、今はサーと姉さんと私だけでしょう? だったら間違いないもの」
 ニコニコと自分の腰に巻きついて笑うナセに、クロコダイルは溜め息のような煙を吐いた。
「まァそうだがな……一応確認しろ。そして離れろ」
 部屋の中央のソファに向かうも、腰に纏わりつくナセが邪魔で歩き辛い。クロコダイルとナセの体格差からしてみれば何の事は無いのだが。
「イヤ! このもふもふが気持ちいいの」
 コートにすりすりと頬を寄せるナセに二度目の溜め息を吐いたクロコダイルはソファに腰を下ろす。その目の前のローテーブルに、ミス・オールサンデーは書類の束と封筒を置いた。
「ボス、先程アンラッキーズから報告書が。それと海軍本部から、これが」
「海軍本部だ?」
 いかにも“面倒臭い”と云う顔をしたクロコダイルは、目の前の『MARINE』と印字のある封筒を手に取ると、開けろとナセに渡す。
「海軍本部って何処にあるの?」
 封を切ってクロコダイルに渡しながら、ナセはミス・オールサンデーに尋ねる。
「マリンフォードと云う町よ。レッドラインの頂にある町、聖地・マリージョアのすぐ近くにあるの。どちらにしろ、ここから行くにはかなりかかるわね」
 ミス・オールサンデーは興味無さそうに紅茶を啜った。
「ふうん……サー、何て書いてあったの?」
「面倒臭ェ、召集がかかった」
「七武海の?」
「あァ」
 眉間の皺をより深くさせて、クロコダイルは葉巻に“王下七武海、緊急召集命令”と書かれた紙を近付けた。チリチリと焦げてゆくそれを、ナセは面白そうにジーッと見つめる。
「――と云う事は、数週間はここを空けるわけね」
 以前にも度々あったのだろう。ミス・オールサンデーは慣れた風にそう聞いた。
「今後の指示は分かってるな?」
「ええ」

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