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「“英雄”と居るから? でも姉さんともこうして出掛けたりするんでしょう?」
 首を傾げて眉間に皺を寄せたナセは、前を向いたままのクロコダイルを見上げる。
「アイツと表を歩く事はあるが別に珍しくも無ェだろう。カジノのオーナーとマネージャーと云う関係である事は周知の事だ……だが極力連れて歩きたくは無ェ。まァ、おれがお前のようなガキを連れて歩く事が愚民共の目をひくのは確かだろうな。カジノの時も物珍しそうに見られただろう」
 クロコダイルの言葉に、ナセは、ウーン……と小さく唸った。
「それはつまり、私は“連れて歩いてもいい”って事?」
「……」
 ナセがそう聞くと、クロコダイルはいつもの仏頂面のままで何も答えなかった。
 だが、ナセは未だに遠慮なくぶつけられる視線にウンザリしつつも、こうしてクロコダイルと歩いている事、そして隣を歩く事を許しているのが自分だけなのだと云う事に嬉しくなって、何だかもうどうでも良くなっていた。
「ふふっ」
「何だ、もう機嫌は直ったのか」
 ガキだな、とクロコダイルは呆れたように云うが、ナセがニコニコと微笑み返すので少々面食らう。それを隠すように葉巻の煙を吐き出すと、空いている右手でナセの頭をわしゃわしゃと撫ぜた。
「えへへ……サーの隣を歩けるなら何でもいいやって思って」
「……勝手にしろ」
 まだ出逢って僅かだが、クロコダイルについて分かった事が幾つかある、とナセは思う。
 そして今は、どんな状況に陥っても、この男の隣に居れば怖いものは何も無いのだと、その腕の温もりに頬を寄せるのであった。



「サー! サー居なーい?」
 地下の事務所で、ナセがパタパタと走り回っていた。もうすぐ17になると云うのに、その無邪気な姿からは若干の幼さが感じられる。
 バナナワニの水槽を覘いたりもしたが、お目当ての人物は何処にも居なかった。
「どうしたの? ナセ」
 すると、広い地下の一室から黒髪の美女が顔を覗かせる。
「あ、姉さん! サー知らない?」
 小首を傾げたナセに、ミス・オールサンデーは微笑んで、その栗色の髪を撫でた。
「ボスは今、広場で暴れてる海賊を鎮めに行ってるわ。何か御用なの?」
 その時、地下に誰かが降りてくる気配がして、コツコツと廊下を歩く音が響いた。

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