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「入るぞ」
 一応のノックはしたものの、返事も聞かずにクロコダイルはドアノブを回した。
 入った部屋は地下室の一室であるミス・オールサンデーの部屋だ。事務所よりは幾分か狭い部屋に、本や人の頭蓋骨、骨董品などが綺麗に整理されていて、まさに美・考古学者の部屋と云う感じだった。
 そこにあるソファには、この部屋の持ち主ではない者が静かな寝息を立てている。
「――ナセ」
 コツコツとソファに近寄るが、全く起きる気配が無い。
「おい、起きろ」
 派手な指輪をはめた右手でナセの頬を軽く叩くと、ナセは小さく唸りながらゆっくりと目を開けた。
「……む、うーん……さー?」
 目を擦りながらナセは起き上がると、ぼんやりとクロコダイルを見上げた。
「おかえりなさーい」
「あァ」
「おはよー」
「……もう昼過ぎだ」
 クロコダイルは呆れたようにそう云うと、部屋を見渡す。
「ミス・オールサンデーが居ねェな」
「うん。姉さんはダンスパンダ……がなんとかって云って、ちょっと前に出て行っちゃった。本読んでたんだけど眠くなっちゃって」
 ナセはソファの横に落ちていた本を拾うと、エヘヘと笑った。
「パンダ……“ダンスパウダー”だろうが。――居ねェならいい、後で電伝虫でもかける」
 クロコダイルはそう云うと、コートを翻して部屋を出て行こうとする。
「あっ、サー待って!」
「あ?」
 ナセはソファから降りてクロコダイルに駆け寄ると、その左腕に自分の腕を絡ませた。
「……何してんだ」
 怪訝そうな顔でクロコダイルはナセを睨むが、ナセは全くひるむ事なくフフッと笑った。
「お腹空いたの! サーもお昼まだでしょ、一緒に食べに行こっ」
「……」
 クロコダイルは嬉しそうなナセを見下ろして、いつかのカジノへ行く時と同じようだと無意識の内に口角を上げていた。それに自分で気付いて眉間に皺を寄せる。
「おれは忙しい身だ、悠長に食ってる暇は無いぜ」
 そう一応云ってみるが、ナセはウン! と強く頷いた。
「やったあ! サーとご飯食べるなんて初めてだよね? ふふっ楽しみ……あ、姉さんと食べるのだってとっても楽しいの、考古学のお話を沢山してくれるし! ――でもね」

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