08
 時は少々遡る。
 ミス・オールサンデー……もといニコ・ロビンが任務を遂行し、レインディナーズに戻ろうとしていた時の事。
 湖の真ん中に位置するレインディナーズの地下へは表からも裏からも入れるが、表は店の中を通らなければならないので、ロビンは裏口へと繋がる細い裏道を歩いていた。
「……、何かしら」
 不意に何処からか女の悲鳴と、男の怒鳴り声がする。
 普段はひっそりとした通りの筈なのに、と首を傾げながらも歩いていると、段々と声が近くなった。
「やだ、行きたくないッッ!!」
「大人しくしろってんだよ! もうお前にゃ体しか無ェんだ!」
 それはレインディナーズの裏口の目の前で繰り広げられていて、従業員である数人の男と一人の少女がそこで揉み合っていた。
 少女はカジノに来るようなセレブな身なりではなかったが、顔立ちは幼くも整っていて凛とした雰囲気を感じる。
 従業員の男が少女の腕を引っ張るが、地べたに這いつくばった少女が必死に抵抗していると云う様子に、ロビンは少し顔をしかめた。
「何をしているの?」
 いつもなら、こんな面倒臭そうな場面を前にしても素通りのロビンだが、少女の持つ雰囲気と、この状況においても爛々としている瞳が気になって、つい声をかけてしまった。
「こッ、これは! マネージャー!? お戻りで……!」
 ロビンの顔を見た途端にヘコヘコと笑い出した男を睨みつける。
「何をしているのか聞いているのだけど」
 すると、ヒッと云う声を上げた従業員らは、顔を見合わせながら恐る恐る話し出した。
「そ、それが……! その、マネージャー、このカジノで財産を全てスッてしまった者に、敗者復活の場があるのはご存知ですよね?」
「ええ、そこの事でしょう」
 ロビンの視線の先にあるのは、今居る通りを挟んでカジノの向いにある小さな建物だ。
 表にあるカジノとは比べ物にならない小屋のようなものだったが、てっぺんには小さくバナナワニの像がある。そこは、表のカジノで運悪くも財産全てを賭けて失った者に、最後のチャンスとして自身を賭ける賭博場であった。
「運良く金を手に出来た者は、そこから解放されますが、負けた者は……」
「つまり、その子がそこで負けたのね」
 従業員は苦笑いで頷いた。
「そうなんです。全財産を失くした時に、男は労働、女は娼館にと云う取り決めの血印も押したのにも関わらず、この女は云う事を聞かなくて…」
 参ってるんです、と云う男の声を半分に聞きながら、ロビンは腰を屈めて少女の様子を覗く。
 少女は埃塗れになり小さく震えていたが、深い漆黒の瞳が自分と似ている気がした。

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