03
「なら、ナセ……おれと勝負するか?」
「勝負? なにで?」
そう聞くと、クロコダイルは顎で天井を指す。
「“カジノ”で、だ」
「カジノ? ……でも私、賭けるお金は持ってないし……それに、クロコダイルさん相手になんて勝てる気がしない」
全財産スッてしまった事で今ここに居るナセには、カジノは嫌な思い出の場所でしかない。更に、彼が何かの計画を幾つも企てている姿を見ているから、クロコダイルはとんでもない策略家なのだろうと想像がつく。そんな彼に勝てる気など全く無かった。
「なに、賭け金はおれが出してやる、それにちゃんとハンデはつけてやるさ」
「本当?」
「だがな、条件がある」
ホラ来た、とナセは顔をしかめた。やはりタダで勝負をする男ではない。
「クハハ、そんなあからさまな顔をするな。そうだな……お前が勝ったら何でも好きなものをやろう」
その条件は子ども扱いされているようで、ナセは複雑な気持ちになる。しかし、あのクロコダイルが云ってくれているのだ。かなりの条件だ、とナセは素直に受け取る事にした。
「ただし、おれが勝ったら――」
「私が負けたら?」
そこでクロコダイルはニヤリと笑った。
「おれの云う事を一つ聞け」
ナセは眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「“云う事”って?」
「それはおれが勝ってから決める」
「えー!? そんなのズルい……」
完全に何かを企んでいるような笑みのクロコダイルにナセは悩む。
が、どうせ暇なのだし、金は相手持ちだ。条件は些か引っ掛かるが、ゲームを楽しめればそれでいいとナセは納得した。
「どうする、ナセ」
ニヤニヤと含み笑うクロコダイルの罠にかかってしまった気がしながらも、ナセは頷く。
「やる!」
「フン、二言は無いな」
クロコダイルは咥えていた葉巻を灰皿に押し付けて、最後の煙を吐く。そして椅子から立ち上がると、ナセに鉤爪のついた左腕を差し出した。
「……?」
「仕事を中断させたんだからな。楽しませて貰おうじゃねェか」
「――ふふ、うん!」
ふわりと笑って、その腕に自分の腕を絡ませたナセにクロコダイルは不敵に笑う。
「久しぶりにルーレットでもやるとするか……」
事務所を出る瞬間に電伝虫が鳴った気がしたが、そんなものは無視して上階のカジノに向かうのであった。
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