×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
第一話

いざ!第二幕の開演だ!


「そうだ!俺たちがやらなきゃいけないんだ!」


主人公ポジションの少年は、高らかに宣った。太陽のように眩し過ぎる笑顔と、友情、努力、勝利の拳を掲げて。


「まったく、ほんとあんたは言い出したらきかないんだから」

「まっ、そこがタケルの良いところなんだけどね」

「ふん、勝手にしろ」

「えっとぉ……」


おいおいおい、なに勝手に盛り上がっちゃってるんだよ。ねぇ、私の意見は?ねぇ、ちょっと、私の意見はスルーなの?えぇえぇ、わかってますよ。どうせ、こうなるんだって。


「ルカ、お前も良いだろ?」

「え?えっと、その……」

「ちょっと、タケル!まぁた、そんな言い方して。ルカ、ルカは無理しなくて良いのよ。ルカはこういうの苦手なんだから」

「あー、ううん。ナナミちゃん。みんなが行くなら私も一緒に行くよ。だって、私も皆の」


仲間だもん。

あぁ、反吐が出る。笑顔の裏で私が何を思ってるのかも知らずに、当たり前だと笑う少年少女に。あぁ、反吐が出る。


「ルカ!あぁ!もう、あんたは本当に良い子ね!」

「あはははは、苦しいよー、ナナミちゃん」


あぁ、本当に苦しい。なんて息苦しい世界なんだろう。世界を越えても意味がなかったのだろうか。それとも世界は私に息をするなというのだろうか。





事の発端は、学校行事の臨海学校だった。クラスメイトのナナミとタケル、ユーマと私は同じ班になった。

ムードメーカーのタケル。
タケルの幼馴染で可愛くて運動神経も抜群なナナミ。
タケルと親友の成績優秀で眼鏡のユーマ。

そして、そこに何故か私。班決めでチョキを出した自分を後に心底恨むことになるとは思わなかった。

臨海学校の最中に異世界に飛ばされた私たち。主人公キャラのタケルくんとヒロインポジションのナナミ、そこに頭脳派のユーマが選ばれたのは分かる。アニメや漫画にそのまま入れそうなキャラクターだ。

だが、何故私が。脇役の脇役ポジションの私が選ばれたのは完全に巻き込まれだろう。たまたまそこに私がいたからだ。

紋章?それが選ばれし者の証?神獣と意思疎通できるのが選ばれし者の能力?そんなの知らないよ。そんなの知らないのに、盛り上がっていく三人に言い出せなかったのは他でもない私自身だ。


「ルカ、大丈夫か?」

「ライ。うん、大丈夫だよ」


私のパートナー神獣のライ。獅子と虎の子、俗に言うライガーのモンスター。白獅子に虎模様がある。属性は雷。変幻自在に体の大きさを変えられる。


「良かったのか?」

「良くは、ないけど……」


どうせ何も言えないのは事実だし。今更、聞き分けの良い子役を壊すのも勿体無い。


「私は主が決めた道を共に歩む。それが悪だろうと正義だろうと」

「ライ」


ライには私の本性がバレている。私の気持ちを知ってる唯一の存在。さすが相棒。きっとライがいなかったらこの旅はもっと苦痛だったに違いない。


「あーあ。正義とか悪とか面倒だね」


そんなの立場が違えばすぐに揺らいでしまうほどちっぽけなものなのに。

悪の組織、その名も『ANGELS』。それに対なす正義が選ばらし者であり、この世界を救う紋章が刻まれた五人の子供とかなんとか。序盤に登場した石板とこの世界のことをよく知る謎の人型モンスターが言っていた。


「紋章が痛むか?」

「うん、ちょっと」


腕の中で抱いていたライが労わるように、そっと紋章の刻まれた首筋を舐めた。


「ふふ、くすぐったいよ」

「何故、ルカの紋章だけが」

「それはきっと、私が」


紋章に相応しい正義じゃなかったからだよ。


「おい、飯の準備が出来たぞ」

「あ、うん」


みんなと離れたところで沈む太陽を眺めていればショウが私を呼びに来た。この男の子は旅の途中で仲間になったショウ。クールなイケメンだ。出会った当初はタケルとも激突して敵なのか味方なのかって感じだったが、今ではすっかり良い好敵手になったようだ。


「わっ!?」

「おい、フゥ。何度言ったらわかる。主に近付くな」

「はん!相変わらずお固い奴だなライ」


ショウのパートナー神獣は黒鷹モンスターのフゥ。属性は風。主のショウくんに似ず、お調子者。


「フゥ、やめろ。くだらないことをするな」


フゥは私の頭の上でバッサバッサ翼をはためかしている。わりと酷い嫌がらせだ。


「悪いな」

「え、あ、ううん。大丈夫だよ」

「……」


真っ暗な瞳で見据えられ、居心地が悪くてそろそろと視線を外した。何だか不純な心を見透かされていそうで怖い。

この世界は人間とモンスターが共存している。今やモンスター数のほうが人口を上回っているとか。


「あ、来た来た。ルカ遅ーい!」

「早くしろよなー。俺、まじ腹減って死にそー」

「あはは、ごめんね。ナナミちゃん、タケルくん」


本日は、というか本日も野宿。夜空の星が瞬く下で焚き火を囲んでの夕食だ。最初の頃に比べれば随分と逞しくなったな私たち。


「ねぇ、ルカ」

「ん?」


飯盒で炊いたご飯にユーマ特製カレーは美味だ。隣のナナミが、こっそり耳打ちしてきた。


「さっき、ショウと何話してたの?」

「ショウくんと?」

「ショウがルカのこと呼びに言ったじゃない?」


炎の向こう側でタケルが騒いでる。元気だなぁなんて思う自分は本当に皆と同じ歳なのだろうか疑わしい。少し離れたところで話題に上がったショウはタケルを小馬鹿にしたように笑いながら食事をしていた。


「何も?呼ばれただけだよ」

「そう」

「あ、でも」

「え」


ほっとしたナナミの顔が強張った。擽られる加虐心。


「ルカ?」


ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。


「またフゥくんにバサバサやられた」

「あ、なんだ」


安堵して肩を下げたナナミは、いつもの調子に戻りフゥを叱ってくれた。「ナナミちゃんて姉御肌だよね」ってライに言ったら、ルカは人が悪いと溜息を零された。げせぬ。

第二幕開演に至り、現在私達が目指してるのは悪の根城。『ANGELS』通称『テンシ』の総本山だ。

総本山はこの世界でいう北側の冬エリアにあるらしい。私達がいるのは南側の夏エリア。セントラルエリアを横切って冬エリアに直接行けば良いのに、なにやら他のエリアに散らばってるエレメントを集めないといけないらしい。どこのRPGゲームだ。


「よし、次のエレメント反応はどこだ?ユーマ」


食事も終え、就寝前に作戦会議である。


「うーん、ここから近いのはちょっと東に向ったところにあるみたいだね」


腕に巻かれた古代紋様の刻まれたアンクル。そこから随分と科学的な画面が飛び出した。それをユーマが指先が空を切るように器用に操っている。


「東ねー、じゃあ先に春エリアを制覇しちゃう?」

「西は北が侵食してきていて悪の色が濃くなってきているらしい。今の俺たちの力じゃ西に向かうのは自殺行為に近い。ナナミの意見が妥当だな」

「ショウが言うならそうなんだなぁ。じゃあ、明日から東に向かおう!」


さぁ!新たな仲間も加わり第二幕開演だ!はっ、笑える。


「ルカ」


焚き火も消し皆が寝静まった頃、私は少し離れたところに流れる小川で足をちゃぽちゃぽと遊ばせていた。川に映る月も星も、この世界にきて随分経つというのに未だに私の胸を高鳴らせた。


「ライ、起こしちゃった?」

「いや」


大きい姿になってるライが近付いきた。擦り寄り、そのまま私を包むように体を丸めて瞼を閉じた。どこまでも優しい相棒だ。


「ねぇ、ライ。ごめんね、こんな人間が相棒で」

「ありがとう、ルカ。君が相棒で私は誇りに思う」


優しすぎる相棒は蕩けたチョコレートより甘い。ライの温もりに護られて私はようやく眠りにつけるのだった。


[ 2/2 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[]