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幼女、さにわになる。

彼女はいつも仰いでいた。囲うようにぐるりと高く連なる黒い影。その中に欲に満ちた双子の星が幾つも彼女を見下ろしていた。

鈴虫が鳴いた。

鈴虫が鳴いて、鳴いて、鳴いて、鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて泣いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて鳴いて、ナイテ。


「う、る、さぁあああああああっ!!!」


彼女は、彼女自身の叫ぶ声が聞こえてはいなかった。小さな手で耳を塞ぎ、小さく丸まった背を、黒い影、大人たちは「失敗か」と嘆いたとか。





「審神者様!またこんなところにいたのですか」

「ん、うぅ」

「こんのすけ、静かにしてくれ。大将は今お昼寝中だ」

「薬研様!」


赤いスカーフを巻いた管狐は薬研藤四郎を諌めたあと、首を振り息を吐いた。


「甘やかさないで頂きたい。審神者様は見た目こそ幼子でございますが、この本丸の主。審神者なのでございます。お仕事が、たーんと山積みなのでございます」


キャンキャンというより生物上コンコンと小言を並べるのは、こんのすけ。この本丸担当の管狐。そして管狐に説教されているのが、この本丸の主『審神者』の少女。

彼女は今、本丸の縁側にて短刀の薬研藤四郎の膝枕でお昼寝中である。かくも、彼女は審神者などと大それた役職を担っているものの、その見た目は幼女。静かに寝息を立てている幼子独特のぷっくりとした横顔を眺め、薬研はこの穏やかなひと時を満喫していた。


「昨夜は遅くまで起きて仕事をしていたんだ。大将に今必要なのは休息、だと思うがな」

「まったく!ここの刀剣男士達は皆、審神者様にお甘いと思いますよ!こんのすけは」

「甘くもなるだろうよ、見た目がこれじゃあな」

「見た目が幼子であっても彼女は立派な審神者。それも高位霊力者でございます。この御歳で一つの本丸を任されるぐらいに.....」

「不憫に思っているのか」

「なっ!?こんのすけめは、そんなっ.....」

「俺もこんな見た目だけどよ、実際は大将の何十倍も生きている。なのに大将は見た目と同じ年月しかまだ生きていない。こんのすけが心配する気持ちもよくわかるぜ」

「薬研様」

「まぁ、だがよ。こんな小さな体で精一杯色々考えたり思ったりしてるよ大将は」


薬研は愛おしそうに艶やかな審神者の黒髪を指先でそっと撫でるように梳いた。


「この本丸にいる刀剣男士で、この小さな主を馬鹿にしてる奴なんて誰一人いねぇ。それどころか、皆大将を護りたくて仕方ねぇんだ。だからさ」


俺らはきっとどこの本丸の奴らより、強くなるよ、きっと。


「薬研」

「山姥切の旦那」

「主を」

「はいよっと」


この本丸一の古株であり、主の初期刀である山姥切国広。薬研としてはもう少し堪能したかったのだが、彼が来てしまえばそうもいかない。

未だに眠る大将を起こさないようにと抱き上げれば、胸がざわりと逆立った。余りにも軽い体に雲を掴むような不安が過ぎったのだ。


「薬研?」

「いや、すまねぇ。あまりにも軽かったもんで」

「……」


口数が少なく、表情の移り変わりが少ない山姥切に大将を渡せば、そのフードから覗く口元が確かに緩んだのを薬研は見逃さなかった。

あぁ、大将はすげぇな。あの山姥切の旦那にあんな顔をさせちまうんだからな。

山姥切は、審神者の部屋へと足を向けた。その後方をこんのすけが着いて歩く。


「山姥切様、審神者様の初期刀の貴方には言っておきます。審神者様の力を政府の上層部は期待しております。あまり成果がみえないならば、それは彼女の霊力の持ち腐れとみなすでしょう。その意味がわかりますしでしょうか?」

「……主は俺が護る」

「……分かっておられるのなら良いのです」


こんのすけは、ただただこの幼い少女の運命が不憫に思えてならなかった。気の良い刀剣男士達に恵まれたことを幸いと思えば良いのか、こんのすけは何とも言えない感情を呑み込んだのだった。





幼女、さにわになる。
(逆らえぬ運命ならば、いっそそのまま流れて流れて流れて、最果ての先には何が待ち受けているのだろうか)


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