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昼寝

「あれー?山姥切さーん、うちの五虎退知りませーん?」


自室で読書中だった山姥切りの元へ、ひょっこり顔を出したのは乱藤四郎だ。


「?知らんが」

「んもー、同じ粟田口として鍛えてあげよーって思ったのにー」


ぷっくり頬を膨らませて腕を組んだ乱。怒っているようだか、愛らしさしかない。


「乱、お前は今日畑当番だろう」

「えー、ボク畑仕事って手に豆できちゃうしー、お洋服も汚れちゃうから嫌ーい」

「.....」

「んもー、山姥切さん顔怖ーい」

「乱」

「はいはーい、ちゃんと今日分の畑の手入れは済ませましたよーだ」

「ならいい」


べーっと舌を出した乱に、山姥切は興味を無くし本へと向き直ってしまった。

ほんと、コミ障なんだからさ。それにしても。


「んもー、本当どこ行っちゃったんだろー」


本丸をぐるぐるぐるぐる回っていると、見慣れた猫、ではなく虎を発見。


「あれー?君は五虎退の虎くんじゃないかー」


「君もぼっちなのかーい?」と虎を抱き上げてよしよしと撫でれば、虎はまるて嫌々と言うかのように飛び出してしまった。


「おっと、どうしたのー?」


りぼんを揺らしてスタッと着地した虎は、チラリと乱を見上げた後スタスタと歩き初めてしまった。

しばらくポカーンとしていた乱はハッと気付く。


「え?付いてこいってこと?」


「ちょっと待ってー」とのクールな虎くんの後を、乱は慌てて追いかけた。

着いた先は、本殿とは離れたところにある道場。刀剣男士たちが鍛錬をする場である。


「道場?今日は確か、今剣と小夜が手合わせしてたはずなんだけどー.....」


音の無い道場に乱は首を傾げる。玄関口でそーっと靴を脱いで忍び込むように覗きこんだ。


「あ」


中央で寝転ぶ小さな姿が一、二、三.....、あるじさん!?

ちょっ、なんであるじさんが!?てか、竹刀四つって、まさかあるじさんも一緒に手合せしたの!?


「山姥切さんに、バレたら殺される」


ヒヤリと背筋に冷たい何かが流れれば、足下をするりとモワモワしたものが通った。


「ひぃ!?」


モワモワしたものの正体は、ここまで案内してくれたモフモフの虎くん。中央の屍と化した小山に近付き、「くわっ」と一つ欠伸を零してそのまま丸まってしまった。

乱は、忍び足のまま四人と五匹の元へと近付く。すると何とも気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。


「あー、随分ハデにやったんだね」


やれやれと息を吐き、乱はしゃがみ込んで五虎退の顔を覗き込んだ。


「ふふふ」


ボロボロなのに何故か満足そうな五虎退の顔。乱は、そっと手を伸ばし五虎退の白くて柔らかい髪を撫でた。


「頑張ったんだね」

「ん、んん、あるじさま.....僕もつよく」

「.....そっか、五虎退。君もか」


ボクもね。


「ボクも強くなって、あるじさんを護りたいんだ」


ボクらの主は、とても弱いお方だから。


−−−−−−夕暮れ


静まり返った本丸。気付けばもうこんな時間なのかと山姥切国広は本を閉じ、腰を上げた。いつもなら煩わしいぐらいに賑やかな短刀たちの声が一つもしない。山姥切は腰元の柄に手を掛けたまま静かに本丸を歩き始めた。


「何やってんだ。主まで.....」


仲良く眠る短刀たちと主、そして虎を道場で発見。弟を探していたはずの乱まで一緒になって眠っている。

山姥切は呆れたように息を吐き.....。


「平和、だな」


頬を緩めた。

こんな日があっても良いかと、主の横に腰を下ろし自身の布を主に掛けた。

年齢相応の寝顔に、何故だか安堵している自分がいた。


「主.....」


そっと瞼を閉じた。


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