紙飛行機を飛ばす



数学の授業中、ぐりぐりと机に描いた柳の似顔絵を渋々消す。本当は消したくない。すごい力作なんだから。なのに真田ときたら!

「机に落書きなど、たるんどる!大方、授業も聞いていなかったのだろう」

授業が終わった途端に私の机の前に仁王立ちする真田。確かに、数学なんて訳わかんないから授業は聞いてなかった。というより聞きようがない。だって、わかんないもん。だから、後ろの席の柳生からノートを借り受けた。ていうか見てたのか。


綺麗な柳生のノートを丸写ししたところで一息。私の頭の引き出しには全く仕舞われていないことなど二人には見透かされている。居心地が悪くて、机の中からルーズリーフを取り出して何とはなしに落書き。

「そういえば、仁王くんにいたずらを仕掛けましたね?」
「におちゃんねぇ。引っかかんなかったよ。けど、ほら赤い髪の男子は引っかかった。おバカだねぇ」
「もしや昨日、丸井のワイシャツが汚れていた原因はお前か」

笑いを噛み殺す柳生とは反対に、しかめっつらで今にも怒鳴ろうとする真田。私は経緯を説明した。

「丸井?だっけ。におちゃんに触ったら色水の出るガムを出したのよ最初はさ」
「ぱっちんガムですか」
「そうそう。そしたら、横からその男子が引っかかったの。赤い砂糖水でべったべた」
「食い意地だけは勝てませんね」

ルーズリーフで懐かしい紙飛行機を作れば、柳生も一枚頂けますか、と。紙飛行機なんて弟とよく作ったけど、飛ばして勝った記憶なんてまるでない。

真田は丸井とやらを叱りつけたことを考えているのか、口を真一文字に引き結んだまま。食い意地が張ってるそ奴が悪いのだよと勿体振って、ルーズリーフを手渡す。真田ってこういうの得意そう。

「ねぇね今度、遊びに行こうね」
「この三人でか?」
「構いませんが」

飛行機に名前を書いてみる。何故、何故と言いたげな表情をする二人。確かに、この三人で休みの日に出掛けたことなんて一度たりとも無い。

何をするんだと真剣に腕組みをする真田。そうですねぇ、と行きたい場所を論う柳生。そんな二人に私は嬉しくなる。二人が作り終えた飛行機に「さなだ」「やぎゅー」と書く。

きっと楽しい。フラフラする私を叱責する真田と嗜めつつもマイペースな柳生。他の誰にも邪魔されない三人の関係を作りたい。そりゃあ…テニス部みたいな強ーい関係は無理かもしれないけど。二人がどう思ってるか知らないけど。

「漢字で書かんか」
「懐かしいですねぇ」
「あ!ちょうど幸ちゃんたちがいる!届くかな?」

紙飛行機を作れば飛ばしたくなるのは道理。教室の窓から中庭を見下ろすと、体操服姿の幸ちゃんとにおちゃん。あと赤い男子。

まさかと顔を引き攣らせた真田に、ニヤリと笑ってやる。そして、やめんかと制止する真田をかい潜って自作の紙飛行機を飛ばした。呆気に取られた真田の手から抜き取った真田の紙飛行機は柳生に託す。

「幸村くんなら拾って下さるでしょう」
「ね」

馬鹿者!と怒る真田だけど、柳生の手から離れた紙飛行機をジッと見送る。何となく、甥っ子と遊ぶ時もこんな感じなんだろうなぁと思った。


私の紙飛行機は幸村くん、柳生のは丸井、真田のは仁王の足元にふわんと着陸。上を見上げる三人に、私たち三人は手を振った。

さて、何処に遊びに行くか決めよう。


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