眠気を誘う赤


ピピピ、無機質な目覚まし時計の音が鳴り響いた。眠たい目を擦りながら、手探りで時計のスイッチを探して、音を止める。身体を起こそうとしたところで、自分が今身動きの出来ない状態にあることにようやく気がついた。

腰に回る彼の腕は夢の中にいても強くて、たじろぐあたしに気付いているのかいないのか、離してくれようとはしなかった。サラサラしていて美しい髪と、ニキビひとつない白い肌を持つ均整な顔が目の前にある。どうして、この人はこんなに寝顔が素敵なんだろう。



「………、ん…」

「……あ、征十郎…起こしちゃった?」

「……ううん、」



オッドアイの綺麗な瞳がゆっくりと開いて、あたしを射抜いた。寝起きだというのにいつだって真っ直ぐで綺麗なこの目が、あたしはとても好きだ。

征十郎は腰に回していた片方の手を離すと、それをあたしの頬にそっと添えた。目を閉じればすぐ近くに感じる彼の優しい匂いと、寝起きのためか少し冷たく感じる柔らかい唇。顔に落ちていた髪が耳にかけられて、唇を食むようにちゅ、ちゅと何度も口付けられて、ああ、朝からなんて幸せなんだろう、と思う。



「……ウミコ、今何考えてた?」

「…ん?朝一番最初に見るのが、征十郎で幸せだなあって」

「……ふふ、可愛いな」



征十郎はそう言うと、目を細めて小さく笑った。征十郎はめったに笑ってくれないから、こんな笑顔も見れるのは自分だけなんだと思うと、この上もなく幸せだ。

頬にあった手は再び腰に回る。あたしの胸に顔をうずめて、すり寄ってくる征十郎…うわ、可愛い。実は、完璧主義者の赤司征十郎は、こんなにも弱くてこんなにも甘えん坊なんだ。あたしだけが知ってる彼…勿論、これから先もこれはあたしだけの秘密だ。



「……ふあ…」

「……ウミコ、眠い?」

「………征十郎見てたら眠くなって来ちゃった…」

「……まだ寝てなよ。今日は休みなんだからさ」

「………ん…」



赤い髪に指を通して、再び目を閉じる。次に目を開けたとき、またこの綺麗な赤があればいいな。微睡みの中で、征十郎が好きだよ、って囁くのが聞こえた。



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