紙袋よりも
そわっそわすんのは男子だけ違うで!力説するのは、まぁ俺が気にしとる女子で泡子。名字呼びが仲えぇん?とかしょうもないこと言うとる奴らはシカト。えぇやん別に。
「誰かに渡すんか?」
「うん」
気張らんと渡せんのよ?と柄にもなく指を突き合わせてイジイジしよる。そのイジケっぷりに苔でも生やしたろかちゅうに。
「渡せ。はよ、渡せ」
泡子は運動苦手。得意なんは副教科と国語ぐらい。嫌いな食べ物はトマトで好きな食べ物はうどんと焼きそば。炭水化物が好きやねんて真面目な顔で言うた泡子の腕は、まぁ細くはない。触りたなるけど、そんなセクハラまがいなことはせぇへん。一応、女扱いしてる。
「ざ、財前はもろた?」
吃る泡子の顔は真っ赤。泡子の机に掛かっとる紙袋は誰に渡るんやろなぁ。そんなこと思っとる俺に、しょうもないことを聞きよる。アホ。
「もろた、もろた。せやないと義姉さんにどつかれる。女の子の気持ちやで言うて」
「や、やさしいんやなぁ…」
「そら」
「お義姉さん…」
えぇ義姉さんは優しいで。俺も優しいんやけど。流石にそれは言われへんけど、もし泡子が渡したくてしゃない男に渡せれんのやったら、もらったる。つか、欲しいやん。欲を言えば本命を。
昼休みも終わる頃、いつもは俺の席に来る泡子が来ない。教室にもいない。なんや…。構いにきた友人を躱して、マナーモードの携帯が震えた。どうせ部長やろなぁ。バレンタインや!自主トレにしよか?て昨日は鏡の前でチェックしとったわ。
「泡子?」
メールは部長なんかじゃなくて泡子だった。教室にいないから渡しにいったんやろなぁと思う。成功報告ならいらんわ。よく読めば、あんまり使われへん階段におるけど来てと。何とは無しに辺りを見回して、そそくさと教室を出る。
騒がしい廊下を抜けて、使ってへん空き教室前の階段に座る泡子を見つけた。膝にはあの紙袋。何や、渡さんかったんか。そう言うたら誰に?と逆に聞かれた。知らんわボケ。
モジモジモジモジ。何やねん。お前にチョコ貰いたいやつおるんですけどーここに。何も言わん泡子に呆れた。それと、泡子にこの俺がフラれるか?分からん。分からんけど、バレンタインにチョコっちゅうんはやっぱ、ソワソワするやろ。謙也さんやないけども。
泡子の頭をポカンとはたいて、何?と睨みつける泡子の目を見た。そんなん、しっかり見たことない。らしくもない。よう分からんけど踏ん切りがついた。
「アホくさ。好きや」
ぽかんと口を開けて、顔を赤くして後退りをする泡子の腕を掴む。何や、意外と平常心やん。俺も思春期やから手を掴んで、どうかなるっちゅうのも考えへん訳やない。
「ざいぜん…」
「なに?」
めっちゃ好きや。一回しか言われへんと俯いた泡子を俺は抱きしめへんかった。そんなん、力加減分からんし。でも、俺もやって言えたのはまぁ、ええんやないの。
謙也さんに自慢したろ。
教室に入るタイミングをずらそうとする泡子を黙らせるんは難しかった。それでも紙袋は俺の手にあるっちゅう事実で気分はえぇからまぁ、許したるわ。
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