大きな背中
私はお兄ちゃんが好きだ
何の話だと言われるかもしれないけど、お兄ちゃん子と言っても過言じゃないくらいに
brother complexだとか言われても、別に気にしてない
ただ、許せないのはお兄ちゃんを馬鹿にするやつだ
氷帝学園中等部、1年C組が泡子のクラスだ。
「お前の兄ちゃんよ、単なるでくのぼうか?」
「おこぼれだろっ!」
目の前でげらげら笑うクラスメイトに泡子は、拳を握った。
あんた達にお兄ちゃんの何が分かるのさっ!
「所詮は跡部様の犬だろっ」
未だゲラゲラ笑う男子クラスメイトに泡子は、堪忍袋の緒が切れた。隣では、幼稚舎以来の友人が馬鹿ねと呟いた。
「やめとけ、やめとけ」
男子たちは、意味を履き違えていた。
友人は泡子がキレたことに対して、馬鹿だと言った訳では無いというのに。
彼らは、自分たちに歯向かうことに馬鹿だという意味で受け取った。
泡子は、ツカツカと前に出た。
痛い目を見せてやる
ナメるなよ!
シンと静まり返った教室で、泡子の目の前では男子たちがニヤニヤと笑っている。
パンッ
乾いた音が響いた。教室が静まり返っていたせいで、尚更響いた。
「あんたらに何が分かるの。言ってみなよ。私のお兄ちゃんはね、馬鹿にされるようなことなんかしてないんだから!」
泡子は平手打ちをした右手を下ろそうとした。
「馬鹿にすんじゃねぇよ!」
男子生徒は、泡子の右手を掴んだ。
と、廊下が騒がしくなった。女子だけではなく男子の声も騒がしく、黄色い声が波のように押し寄せた。
「泡子、何を騒いでる?」
教室の出入口に三人の男が並んだ。
「けっ!腰ぎんちゃくだろうが」
男子はそう言うと泡子の掴んでいた手を更に、強く握り締めた。
迷惑かけたくないのに
泡子は痛みに顔を顰め、大きく息を吐いた。
「いい加減にしなっ!」
泡子は、掴まれていない方の手で男子のネクタイを掴んで引き寄せた。
もう一人の男子は、泡子の勢いに後退った。泡子は、止まらなかった。
「ふざけるな、あんたにお兄ちゃんの何が分かるの!あんたなんかより、景ちゃんや侑ちゃんの方がよっぽど分かってる!分かってもらおうとは思わないけど、馬鹿にするのは許さないからっ」
泡子は、掴んでいたネクタイをグイッと引っ張り、突き放した。
ぱちぱちと拍手がした。
やり過ぎた…
泡子が友人を見れば、よくやったと褒められた。
そして、あっちねと促された視線の先には彼らがいた。
「泡子ちゃん、珍しいな。せやけど、女の子なんやで、無理したらあかんよ」
侑ちゃん、何故抱き寄せるのよぅ
泡子が駆け寄るより早く、忍足は泡子に駆け寄った。そして、抱きしめた。
「忍足、放してやれ。泡子が腐る」
景ちゃん、そんな顔しなくても
「樺地」
「ウス」
跡部が忍足を蹴り飛ばし、泡子から放すと跡部は樺地を呼んだ。
お兄ちゃん?
自分より遥かに大きい二人よりも大きな背中に、泡子は頬が緩んだ。
「次は無い」
たったの一言を、たった一つしか学年が違わない樺地が二人の男子に告げた。
それだけだというのに、二人はブンブンと頭を縦に振った。
やっぱりお兄ちゃんは、格好良いなぁ
「泡子、顔が歪んでる」
ペシリと頭を叩かれた。見上げた先には、満足そうに笑う跡部と忍足。
「せや、お昼一緒に食べよか」
忍足が微笑むと、周りから女の子の黄色い声が飛び交った。
「泡子…、行こう」
目の前に差し出された大きな厚い手の平。マメの名残がある。この手が好きなんだ、と。
「お兄ちゃん、行こうっ」
(せやけど、樺地が兄ちゃんか…)(クソクソ侑士、早く食べろよっ)(いや、弟になるんか)(忍足、樺地が見てんぞ)(…)
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