右手の行方は。



付き合って一ヶ月。まだ、手も繋いだことがない。


「きょ、今日、さ、試合を」
「試合?試合がどうしたのだ」
真田くんの試合、見たいの。そう言えば、真田くんは顔を真っ赤にして表情を固くした。
「い、やかな?だったら……」
「ち、違う!嫌なわけがあ、あるかっ」
「じゃ、あ」
「好きに、しろ」
くしゃりと撫でられた頭から、熱が分散していく。た、大変だ。なんか熱いぞ。
「楽しみにしてるね!」
「………うむ」
そうしたら、今日は一緒に帰れるかな、なんて。

†††

「さーなだ。どうしたんじゃ?なんかやけに張り切っとるようじゃが」
「む……そうか?」
ラリー練習が終わると、仁王がそんなことを言い出した。まさか泡子が見に来ているとは言えず(大体部活中にそんなことを考えるなどたるんどる!!)、知らぬ振りを貫いた。


「しらばっくれなさんな、真田。カノジョ、見に来とるんじゃろ?」


「な!?」
「はい図星。ほれ、ラケット取りんしゃい。たるんどる副部長なら俺にも勝てるかもしれんしの」
「た、戯け!返り討ちにしてくれるわ」
失敬な物言いに、俺もラケットを取った。

†††

真田くんがコートに出た。仁王くんも一緒だ。周りのみんなは仁王くんばかり応援してるけど、私は真田くんだけを見る。
(速い…なぁ。音もすごい。全部に濁点ついてるよ!?)
繰り返されるラリーに、あっさりと仁王くんのラケットが吹っ飛んだ。


(いやいやいや、あれはあり得ないって!)
「お前さんが真田の彼女か?」
「ヒッ!」
「ヒッ!って……」
いつの間にか試合は終わっていたらしい。目の前には鮮やかな銀髪がヒラヒラ揺れていた。


「あ、にお…くん?」
「ご名答。な、まだ質問答えてもらっとらんのやけど。お前さんが、真田の、彼女?」
口調は砕けてるけど、逃がす気はないらしい。私が小さく頷くと、仁王くんはフェンス越しににっこりと笑った。
「アイツのことよろしゅうな。なにぶん真田じゃき、いっこうに前に進まんじゃろ?」
「え、え、」
「ああ見えてあいつ、お前さんにベタ惚れぜよ」
「あちょ、にお」
ひらりと手を振って戻っていく仁王くんに、幸村くんが何か言っていた。練習メニューの調節とかかもしれない。

そうやってそれから部活が終わるまで、私はぼうっとしたまま時間を過ごした。


†††


「泡子」
「お、つかれさま。真田くん」
「ああ」

しばらく経って部室から出てきた真田くんは、さっさと私の目の前を歩いていってしまう。足の長さの差が災いして、もう他人の距離だ。

「さな、く、ちょっと、待って速い!」
「あ、す…まん」
立ち止まって、こっちを振り返る。あちこちに泳ぐ瞳は、やがて私をとらえた。
「もう少し、ゆっくり歩こう。仁王にも、そう諭された」

躊躇いがちに差し出された、


その右手の行方は。
(貢献したまーくんスゴイナリ)


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はっぴーさなたん!

海藻さまリクエスト、付き合ってるけど進展しない二人ということで……えっと、なかなか自信がありませんが、これが片鑚の精一杯です(汗)

お持ち帰り、返品ともに海藻さまのみ可とさせていただきます!

この度はリクエスト、本当にありがとうございました!!


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片鑚澪様、有り難うございます!
2011/05/21

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