食べてくれるだろうか


海子は悩んでいた。

それは、飲み会に行くかどうかである。単純に懐が寒いという理由もあるが、飲むと管を巻き、ろくなことを口にしないからだ。

乱ちゃん主催だしなぁ…。海子は友人の飲みっぷりを考えたが、解決策は皆無。しこたま残った着信履歴に折り返し、参加しますよーとかけ直した。

「久しぶりだね、海子」

隣からは甘い香が漂い、本当に男かいなと疑った。

「弓親、相変わらずだね」
「羨ましいでしょ」

そう言って小さな紙袋を差し出す弓親。中には、以前から海子が欲しいと言っていた香。

「ありがと」
「どういたしまして」

なかなか手に入り辛いそれを、弓親は常連という切り札で手に入れてくれたのだ。

「で、これで一角は手を出してくれるだろうかね」
「うわ、生々しいから」

げんなりと苦笑する弓親は全然なのと聞いた。

「付き合って三ヶ月。それなりに経験してきた私としてはさ、どうかと思う訳よ」
「なるほどね」
「ただれた経験ばかりですがね」

フフンと笑えば、確かにと頷かれた。変に返さない弓親を海子は、良き友人としていた。

「頑張れ」
「あいよ、一角は来ないの?」
「なんだか、朽木隊長に捕まってたよ」

何故、と固まれば阿散井が嬉しそうに近付いてきた。ぐりぐりと席を詰める後輩に呆れたが、許してやるかと一杯貰う。

「海子さん、知ってます?一角さんが女に付き纏われてんの」

けらけら笑う阿散井に殺意が湧いたが、それ以上に海子は一角に殺意を抱いた。

「彼女いるって言えば良いのにさ」
「それか…。そこそこの貴族らしいよ。だから、朽木隊長が助けてくれたんじゃないかな」

大切な部下の為に、と綺麗に箸を裁く弓親が綺麗で、海子は良いのか私、と少し悩んだ。

「あぁ、私も誰か付き纏ってくんないかね」

ぽかぽかしてきた体に風を求め、袷を緩めた。

「ほぉ、いい度胸してんじゃねぇか」

ドンと音を立て阿散井が転がった。そして阿散井のいた場所には、渦中の斑目一角。わお、と手を広げれば、頭に軽い衝撃。泣き真似をすれば、弓親にやめないかと顔をしかめられた。

海子はどうしたものかと考え、胡瓜を摘む一角を一瞥した。

「海子、言っておくがな朽木隊長の方から助けてくれたんだ。馬鹿なことするなよ」

全く。盛大にため息をはいた一角に海子は、パンと手を叩いた。

「さっきさ、弓親に頼んだ香を貰ったの」

ころりと変わった話題に、一角と弓親はいつものことだと。

「で?」
「これつけたらさ、手を出してくれるかね?」

ブッと吹き出したのは一角で、調度良く移動してきた檜佐木は目をひんむいていた。聞き付けた乱菊は、檜佐木を退かす。

「これは良いわね」
「だろう」

弓親と乱菊がニヤニヤと自分を見る。一角は、阿呆かとポカリと海子の頭を殴った。



「馬鹿、元々、今日はそのつもりだってのによ」

「わお、食べられちゃう!よし、一角帰るよ」


ばたばたと動き出した海子は、阿散井を蹴飛ばしお代を乱菊に押し付けた。




「早く!」

「女が盛るな」

一角は言うが、緩む口元を弓親に指摘される。




「では、食べられてきます」

「悪いな、食ってくる」


意気揚々と暖簾を潜る海子と、獲物を狩るように笑う一角を弓親と乱菊は、ばいばいと手を振った。





「海子ったら、恥じらいがないのかしら?」

「僕は松本さんにそう言いたいよ」





同じく、と呻く檜佐木は乱菊の豊満な胸の餌食となった。





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