あの人変なんです


「檜佐木先輩が変なんだけど」

死んだ魚の目をした海子が、俺と吉良の腕を掴んだ。



疲労感が尋常じゃない…

俺と吉良は事情を知ってるだけに説明するのが疲れる訳で、吉良に放り投げた。



「あー…吉良説明してやれよ」
そんな目で見るな…



「嫌だよ、阿散井くんがすれば良いじゃないか」



んだよ


「で?」

そんな風に凄まれたら、説明しなくちゃならねぇ。





「あれは、海子に恋してんだよ」
「は?」


そんな阿呆面するなと言ってやりたいが、吉良が進めてと促す。



「恋だ」





「何、恋してたら朝と帰りに隊舎前にいたり、配布物をわざわざ私に届けたり、勝手に名前で呼んだりするの」

海子は、必死の形相で俺の胸倉を掴んだ。




「信じられないね」

吉良は、大きな大きなため息を吐いた。
乱れた髪が何と言うか…





「だけどよ、悪気ねぇし」

悪気はない
ただ、過剰なだけで

阿散井は、檜佐木の海子への惚れっぷりを知っているだけに無下に出来ない。

それは吉良も同じで、はぁと溜息をまた吐いていた。





「そう、それでいきなり、いつ結婚しようかとか子供は何人とか。朽木隊長に仲人を頼もうとか言ってるの」



指折り数える海子の手を吉良が、優しく包んだ。



先輩…
流石にフォローしきれねぇよ!


海子の大きな目が死んだ魚の目になっていることが、全てを物語っていた。






「檜佐木さん、来て下さい」

やっぱりね、と俺と海子の声が重なった。




廊下の角から様子を窺う様に、頭が痛くなる。



うずくまる俺を軽く蹴飛ばした海子は、吉良の手を取った。




「吉良くん、説教よろしく」
「あぁ」





つか、足癖悪いっての!
恨めしそうに見れば、睨まれた。




「え!何でっ!?」

檜佐木先輩、あんたのせいだ!

海子の八つ当たりも含めて、先輩を睨んだ。




「分からないなんて、末期だね」



吉良の言葉に、そうだなと言うしかなかった。







あれから、先輩は何とかまともになった訳だ。

すると、どうしたことか海子から相談をされるようになった、檜佐木先輩の。





あぁ、実を結びそうだな






(嫌われてないかな?)(別に海子を嫌いになることはねぇよ。檜佐木先輩と飯、行くぞ)(海子ちゃん、嫌いにならないよな?)(檜佐木さん、海子くんとお昼行きましょう)((緊張するからっ))((今更…))







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