見合い


「浮竹くん、お酒どう」

雨乾堂に入り浸る海子。
浮竹はさして問題は無いのだが、彼女の所属七番隊隊長、狛村が珍しく悩んでいたことを思い出す。




「良いじゃないか」

仕事に取り組む姿勢は確かなのだけれど。




「お二人さん、僕も入れてよ」

ふらりと現われた京楽に海子は、来た来たと手招きをする。

のんびりと他愛もない話をし、ちょぼちょぼと杯を空ける。



「三人が一番落ち着くなぁ」

海子が、ほんのり染めた赤い顔を二人に向けはにかむ。

そうだな、と笑う浮竹の横で京楽は珍しく寂しそうに笑った。





「僕ね、お見合いしなくちゃいけないんだって」

表情とは裏腹に、何でもないような口調で告げた。




「何でだ」
京楽くらいになれば当たり前だが…
以前のお見合いなんて随分前じゃないか…
それに




「長兄の顔立てとそろそろとせっつかれているのさ」

笠を弄び、挙げ句隣りの海子の頭に乗せる。



「そうか」
家の事情と次男坊の思いは繋がらないんだな


浮竹に笑いながら京楽は続けた。


「困ったものさ、海子ちゃん聞いてるかい」

ひたすらにお酒を飲み、ふんふんと鼻歌を歌う海子から京楽は笠
を外す。




「聞いてるよ。会ってみたら変わるんじゃない」


「そうだね」


一瞬間を置いて苦笑した京楽に、浮竹は酒を注いだ。



「ふっ…相変わらずだな」

くすくす笑う浮竹に海子は、身体を横に倒して不満そうに睨む。




「こっちの話さ」
「浮竹、このお酒を開けようか」

京楽は、七緒から取り上げられないようにと雨乾堂に隠した酒瓶を取り出した。



「取って置きだろう」
「くすん、良いんだよ」
「京楽ちゃん、くすんは可愛いくないからね」



海子は、京楽から酒瓶を引ったくった。

苦笑いを浮かべる京楽を慰めるのは、勿論、浮竹だ。



手強いな、と笑った友人に京楽は、全くだよと、ちびりちびりと盃を舐めた。






>>>数日後、浮竹は散歩がてらに覗いた七番隊で海子と話をしていた。





お見合いは明日らしいぞ、と最中を片手に浮竹は海子の表情を窺った。





「そっかぁ…ちょいと困るよね」


「ん、何でだ」
ついに気付いたか!




「一緒にご飯とかお酒を飲めなくなるし」

浮竹は、海子の言葉にハハッと乾いた笑いしかでなかった。




気兼ねするでしょ、と湯呑みを口にした。

海子は、ぼんやりと最中を手にした。


確かにな、と言えば淋しそうに笑った。





「三人でいられなくなっちゃうのはなぁ」

いつもは弧を描く唇がほんの少し、歪んでいる。




「寂しいか」
「浮竹くんは寂しくないの?」



肯定した海子に浮竹は内心、喜んだ。
やっとか!




「寂しい気もするが、京楽次第だからな」

浮竹は、海子の真意を確かめるように探った。




「京楽ちゃん、お見合いを受けるかな」

どうだろうな、と浮竹は何かを感じる海子に答えた。




が、答えを求めている訳ではないのだろうとも思った。

そこで浮竹は湯呑みに口を付け、一肌脱ぐかと決めた。



「海子が言ってみれば良いさ」

何を、と聞き返す海子に苦笑するも、見合いだと教えてやる。




「京楽ちゃんがそれだけで止めるかな」

長年の友人だからこその言葉である。



だが、こればかりは友人より男心だと浮竹は思った。


「言ってみなきゃ分からないさ」
結果は目に見えているがな


ぱたぱたと最中の屑を払う海子。




聞こえていたのであろう、狛村はどこと無く苦笑いを浮かべていた。



「分かった、言ってみる」


ん、と拳を握る友人に、やっとだなと思った。





七番隊をあとにして、浮竹はフゥと息を吐いた。

いい加減くっつかないだろうか



浮竹は、手土産に持ってきた金平糖を渡すのを忘れたことに気付いた。


草鹿にでもあげようか

久しぶりの十一番隊に足が弾んだ。






二日後、相変わらず鼻歌を歌って京楽は雨乾堂に堂々と侵入した、執務時間に。


止めたのか、と声をかけた。

「うん、お断りさせてもらったよ」

兄さんに大目玉を喰らったけどね、と泣きまねをする。



海子の言う通り、可愛くないな
一人納得する浮竹。




良かったんだな、と確認すれば、目を泳がせた。


「いや、それなんだけど」
伸ばしている無精髭を扱いた。


実はね、と困ったように笑った。



と、そこに海子が庭に飛び込んで来た。

死魄装ではないところから、今日は非番なのだろう。



「京楽ちゃん、浮竹くんっ食べに行こうっ」

びしっと突き出された紙には、新しく出来た店の謳い文句。

よいしょと縁側に腰掛けた海子。

京楽が持ってきた饅頭の包みを開けた。



こし餡か、つぶ餡希望と言って口にした。



「三人でか」
浮竹は堪らず尋ねた。

「駄目?」


浮竹の隣で首を振る京楽。
「構わないさ」
何となくだが、分かった…

海子、お前ってやつは



「それじゃ後でね」



海子は、来た時と同じように庭から出て行った。

包み紙の折り鶴を残して。




「先は長そうだな」
折り鶴を手に取った浮竹。



「やれやれ…捕まえるのは難しいものだよ」

京楽は折った風車をフワリと手から落とした。



「みたいだな」

手に取れず、畳の上にへちゃりと落ちた桃色の風車。



海子の絽と同じだな



二人は彼女が戻るまでに執務を、と立ち上がった。







(それじゃあ、僕は戻るね)(きちんと終わらせろよ)(当然です)(七緒ちゃん!)(海子さんから要請を受けまして)(そう…)





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