彼女の所業


「檜佐木副隊長、お先に失礼します」

日が伸び始めた今日この頃、緩やかに暗くなる外は騒がしい。

どこかそわそわとした隊員たちに苦笑しながら、檜佐木は後でな、と労った。

九番隊の飲み会が主催され、珍しく参加率が高いのは歓迎会だからだ。



あぁー
まだこんなにあるのか…
檜佐木は、隣りの隊の副隊長が溜めこんだ書類の山に溜め息を吐いた。





暫く時間が経ち、外は夕闇から夜の顔に変わっていた。

今頃なら海子と楽しく飲んでるのになぁ

海子は、十二番隊から異動してきた檜佐木の彼女である。
渋り続けた阿近さんのせいだよな…



残り僅かとなった紙の山に手を伸ばし、早く片付けようと再び筆を取った。





コンコン、と乾いた音が響いた。キィと鳴り、戸が開いた。

久し振りに目に入った白が、檜佐木の手を止めさせた。


「檜佐木副隊長」
ニヤリと笑うその男は、白衣を翻した。




うわ、久し振りだな
檜佐木は、緩んだ顔のまま立ち上がった。



「阿近さん、どうしたんですか」

阿近はピラリと一枚の書類を取り出した。
「この前の訂正書類な」
「あぁ…!」



阿近から受け取った書類を確認する檜佐木。

阿近はきょろり、と見渡すと煙草を加えた。



「一人か、海子は」
「隊の飲み会ですよ」


檜佐木は以前、阿近が海子で遊ぶことが楽しいと言っていたことを思い出した。



ところが、阿近はニヤリと白煙を吐き出した。


「ほぅ…気をつけろよ。色々とな」

阿近は、ヒラリと手を返し、またなと檜佐木を一人残した。白煙の香が妙に部屋に残った。



嫌な予感がする
檜佐木は書類を適当に重ね、鍵穴にささらない鍵をもどかしく回した。



暗がりの中、檜佐木は歓迎会の場へと急いだ。

朱提灯がぷらぷらと揺れていた。

檜佐木はガラリと戸を開け放ち、座敷に目をやった。



やらかしてるんじゃねぇだろうな
海子を構いたくなるのは分かるが!
他の奴らにはっ




沸々と苛立ち、やんやと一際騒ぐ卓に向かった。



ところが些か、様子がおかしいのだ。

現に、檜佐木の存在に気付いた隊員が早くと手を招いている。


「何だよ、騒々しいなぁ」
よっこらせ、と座敷に足をかけ、止まった。




「海子さんが…」

申し訳なさそうに海子の首根っこを掴む三席がいた。
「あ?」
何だこれは…
檜佐木は絶句した。





「飲んで暫くしたらこの調子で…」

海子は三席に捕まりながらも、必死に手を伸ばしていた、男性隊員に。

それだけならまだ良いのだが、海子は頻りに唇を小さく尖らせていた。



これは…どういうことなんだ
海子と付き合いはじめてまだ、時間は経っていない。



檜佐木は、海子が以前いた十二番隊の彼女の元上司の笑みに納得した。

ずりずりと身体を揺らすせいで、座布団など蹴散らかしていた。

そうか、と頷くと檜佐木は海子の首を引っつかんだ。



「海子」
まさか、こんな状態だとはな…

一緒に最初から参加すべきだったな



海子の酒のせいで真っ赤な頬に色素の薄い瞳が艶やかで、檜佐木は溜息を吐いた。
こんな有様だってのに…
可愛いじゃねぇか


自分の馬鹿さ加減に改めて気付いた。



ところが、海子は分かっているのかいないのか、檜佐木の膝に手を乗せてきた。

ほかほかとした海子の手の温かさに何故か檜佐木は、背筋がぞわりとした。
こんなところでまずいぞ…

いきり立ちそうになる欲をどうにか抑えた。


「檜佐木ふくたいちょーだ、くふふふ」

真っ白な手が檜佐木の膝から太股に這う。もちろん、海子は何も考えていないのだろう。



「おいっ」

眼下にいる海子の妙な色気に当てられないように、海子の肩でさりげなく距離を取る。


海子は、言った。
「ちゅーしてあげるねぇ」


ぐはっ、と檜佐木の横で五席が呻いた。
恐らく、色々な意味だろう。知るのは、五席自身のみだ。



諌めようとする檜佐木に海子は不満だったらしく、呆気なく引き下がった。

そして、くるりと五席に向いた。

今日は厄日、なのか
まだ死にたくはない
五席の苦しみなど知らない海子は、言った。



「あの副隊長してくれないってー…。じゃ、しよ?」

指差す先には海子の上司であり、彼氏である。

どこぞの世界に上司兼彼氏の前でキスをする男がいるんだ…
この時、檜佐木と五席は同じことを考えていた。



「海子、さん…」
ほとほと困り果てた五席は、しな垂れかかる海子と何とか距離を取る。


「ちゅー、いやぁ?」
「そういう訳ではなくてですね…」

ムゥと見てくる海子に思わず本音が出た。
普段なら役得だ、と言いたいだけど…
副隊長がいるんだよぉ


五席は恐る恐る檜佐木を見た。無論、海子と距離を取ってだ。



「悪い、連れて帰る」

檜佐木の言葉に皆が安堵した。ぎすぎすとした霊圧をとばすことはなかったが、如何せんあの鋭い眼だ。


この時ばかりは、海子の酒癖に皆が溜息を吐くしかなかった。



「いやー」

ふるふると首を振る仕種に、男としてのダメージを受けた檜佐木。

しかし、甘いだけが彼氏じゃないんだ
妙に意気込んだのは、部下の手前みっともない様子を見せたくないというのが事実であった。



ところが、海子はとんでもないことを口走ったのだ。

「檜佐木ふくたいちょー、絶対苛めるもん」

ぷう、と膨らませた海子から檜佐木を隊員たちは見た。


何をしているんだ、副隊長は…




あぁ!もう…
はぁ、と溜息を吐いた檜佐木はくたりとした海子の身体を抱えた。

ばたばたと動かすのをどうにか収める。



悪かった、と海子を抱え、檜佐木は店をあとにした。



「ふ、副隊長」

檜佐木が黙っているせいか、海子はオロオロとしだした。


ったく、絶対に酒は飲まさねぇぞ
みっともないわ
可愛いわ
キス魔とか知らねぇよ
可愛いかったけどな

あれ、誰かにしたのか

檜佐木はまさか、と海子を下ろした。


まだ赤い頬のまま、海子は檜佐木を見上げた。



「あいつらにしたのか」

檜佐木の低い声に海子は、肩を震わせた。



したのかと再度問えば、うんと頷いた。



「だけど…檜佐木さんとしかしない、から」

ったく…阿近さんに感謝だな
「当たり前だ」


何処にしたのかと問えば、檜佐木の頬に触れた。
少し冷えた指先だった。
小さな丸い手が視界に入った。



「今度から、一人で行くなよ」


反省しているのか、しおらしく頭を縦に振った。


顔から離れた海子の指は行き場をなくした。


甘いな、俺も
「海子」
精一杯の甘い声を出した。


ぴくりと揺れた肩を引き寄せ、そのまま海子の顔の高さに合わせた。



「好きなだけして良いから」
ニヤリと口角を上げた。


あ、や、とうろたえる海子に檜佐木は我慢が出来なくなった。



「大人しくしてろ」
檜佐木は小さな唇に触れた。


海子は触れるだけのそれに、自ら離れた。そして、首を横に振った。


ん、と赤い小さなそれを出した。

やっぱり、止まんねえ



ぬるりと侵入したそれ。疼く身体にお互いが触れ合うまであと少し。






(檜佐木副隊長、海子さんは…)(あー、午後からだ)(…)(海子の分は俺がやるから…)(お願いしますね)






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チロリ様、いかがでしょうか?

甘くなっていますでしょうか!

修正がありましたら、是非に!!


また、いらして下さいっ☆"

睦月


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