優しさ
会いたいけど
海子は小さく呟いた、一角さんと。
付き合いはじめて半年の今、夏の生温い風が体に纏わり付く。
海子と斑目一角の始まりは友人としてだった。
だからこそ、踏み込むことが出来ず海子は悩んでいた。
護廷十三隊一の戦闘集団、十一番隊第三席を背負う男は魅力的で。
本人のあずかり知らぬところで、人気があるのは事実だった。
あれは一週間前の朝、ルキアの代わりに書類配達に出向う海子。
来るんじゃなかった
海子は、書類の山を落とさないように胸にきつくきつく抱いた。
一人の女性隊員が一角の手を握り、話し込んでいた。
二人の視界に入らぬよう、廊下の角から聞き耳を立てた。
「斑目三席、私と付き合って下さい」
可愛らしいアルトに海子は息を飲んだ。
なにをいってるの
何を言ってるの
彼女、私だよね
はやる鼓動を抑え、一角の言葉を待つ。
「あー、可愛いもんな」
一角は笑った。
そりゃ可愛らしいよ
でも…
海子は荒れそうになる霊圧を隠し、書類を抱えて戻った。
>>>ルキアには心配されたが、海子はへらりと笑い躱す。
そして今、伝霊神機を見ては置いてを三日間繰り返していた。
無論、一角からは連絡などない。
こんな機械に振り回されるのは…イヤ
一角さんも早く振ってくれれば良いのに…
自然消滅だけはイヤだ
書類に黒い染みを作っていると、友人が呼ぶ。
「呼んでるよー」
ニヤニヤ笑う友人に首を傾げると、視線の先には一角がいた。
腕を組み、眉間に皺を寄せて仁王立ち。
不謹慎にも、海子は格好よいと思ってしまった。
>>>>廊下に出ると一角はなあ、と海子を見下ろす。
「海子、言うことねぇのか」
一角の言葉に海子はやっぱりと俯いた。
心を決めなくちゃいけないよね
でも、どうせなら振られても
あぁ、一角さんの優しさか
自嘲気味に海子は口を開いた。
「一角さん、私は未練なんてありませんから」
ありますよ、沢山ね
「可愛らしい彼女が出来るみたいですし」
努力、したんだよ
段々と視界が滲みだす。
「だから、私のことは気にしないで下さい。だから」
だから、別れ、るんですよね
言葉が出ない海子に、一角は舌打ちをした。
「馬鹿か、てめぇは!」
海子は一角の聞いたことのない怒声に怯えた。
「言いたいことはそれか」
コクリと頷くしかない海子。はぁ、と大きく深呼吸をする一角。
「ったく、海子よ先週の『アレ』見たろ」
一角は海子を窺う。
海子の知る一角の声音。
「お前な、こっち来る時に霊圧が跳ねてんだよ。で、お前がいるから、わざとだったんだよ」
わざと…なにが
「え…」
一角は壁に寄り掛かり、ぽつりと言った。
「彼女は私だって言ってくれんじゃねえかってよ」
乱暴な言い方のくせに、少し寂しそうに笑う一角。
海子は本当、と聞き返した。
「けどよ、お前勘違いしてんだろ。すぐにいなくなっちまったしな」
初めて見る一角の姿に、海子のもやもやはスルッと消え去った。
「私、一角さんの彼女ね」
渇いた涙が頬を引き攣らせた。
「あー、悪かったな」
わしゃわしゃと頭を掻き混ぜる。
心地好さに、ひたひたと一角に近付く。
「大好きです」
「知ってる」
フン、と鼻息を鳴らす一角の顔はやはり珍しく赤く染まっていた。
ぽふり、と顔を引き寄せられた海子。
一角の香にしがみついた。
そんな二人を見た浮竹とルキアに、後々質問攻めになるのは海子だけ。
それを知らない海子はまだ、一角の腕の中。
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遅くなりました!
りん様、ご希望に沿えていますでしょうか
やけに自虐的なヒロインになってしまいましたが…
修正等がありましたら遠慮なくお願いいたします!
睦月
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