交錯した
別れた男を思い出すのは、満月の夜。
海子は小さく息を吐き出して、夜空を見上げるのをやめた。
「堪忍な、海子の為なんよ」
銀髪が蝋燭の灯と重なる。
その情景は海子が一番愛しくて、一番欲情する時だ。
「嫌いになってないよね」
白い指に絡ませた海子の黒い髪に口付けたギンは、眉を歪めた。
「嫌いになれたら良かったんや」
海子の鎖骨に浮かぶ汗と紅い華を見る。
もう見ることはないんやろね
「そう、私がギンと別れるのはギンを愛しているから」
離れそうになるギンの首に手を伸ばす。
「忘れないで」
右手はギンの指を捉え、撫ぜた。
「僕も海子を愛してるから」
背中に走る感覚を忘れないようにギンは、海子の唇に触れた。
「捨てるんよ」
先程まで濡れていたそれは、うっすらと乾いていた。
「ギン、優し過ぎるよ」
揺れる自分の指を離す代わりにギンは口付けた、深く深く全てを得るかのように。
「最後の涙やね」
海子の涙の乾いた後を辿った。
「海子を捨てる、愛してるよ」
「最低ね」
「褒め言葉やね、ばいばい」
それが半月前。
>>>そして今、尸魂界は裏切られた。三人の男によって。
海子は、四番隊総合救護詰所の屋根でその光を見た。空は割れ、知らない三つの光が降り注いでいた。
空は曇っておらず、異様に青かった。
ギン
さよならね
海子は、自分の知らないギンに別れを告げた。
海子は満月の夜、一人俯いて夜の逢瀬を何度となく思い出した。地面に一つ落とした、市丸ギンと。
海子は離叛したギンに対しては何を思うことなく、以前を思い返した。
ギン
私の知っているギンが、私は好き
今でもずっと
離れていったギンは、知らないギン
良かった、四番隊で
戦場で、ギンには会いたくないもの
だって辛いでしょ
>>>海子と別れて良かったんや
もし連れて来とったら
キミは罪に苛まれる
こんな何も無い真っ白な世界におっても
海子のことばっかりやね
多分海子もそうなんやろね
ギンのことだからきっと思い出してくれているわ
それだけで幸せよ
それだけでボクは藍染はんの仕事を頑張れるんや
向かう先は違えど、交錯したあの時は忘れない
<<<交錯した
古//新