策略は牢に


キンと冬特有に冷えた執務室には、ギンと海子が佇んでいた。

「お詫びをさせて下さい」

頭を下げる海子の白い項が、ギンの欲を誘った。

えらい白いなぁ、あかんよ簡単に見せたら

「ええよ、気にせんといて。あんなミスなんてことないよ」

いつもの調子で笑むギンに、海子は自分のミスで走り回ったギンを思い出す。普段なら吉良の仕事であったはずだが、彼は珍しく一日討伐任務でいなかった。

「でもっ…お願いします」

三席として不甲斐ない、そう呟く海子に、ギンはスルリと手を伸ばし近寄る。

「それやったら、何でもええの」

甘える声を出すことを忘れず、結われた髪から零れたそれを拾う。ピクリと揺らす肩がひどく扇情的だった。

「出来る範囲でしたら」

ほんの少し歪んだ表情さえも今の、今までのギンには艶がかって見えた。

「相手してくれる」

誰が人を想うたら、正々堂々いかないかんて言うたんやろ
そんなん無理や

ギンの言葉に震える海子の瞳。追い討ちをかけるようにギンは海子の耳元で囁いた。
「相手、夜の。何でもしてくれる言うたやん」

静かな執務室に響くのは、秒針が進む音と時折聞こえる風の音だけ。

「あ…あの、私っ」

ギンの領域から抜けだそうとする海子だったが、それは敵わずギンに絡めとられたまま最終通告を受けた。

「今晩、僕の部屋ね」

カタリと閉められた戸の向こうで不安定な霊圧が蹲り、一方は微笑んでいた。


月は満ち欠けをし、夜の帳は降りて冬の寒さの中浮き上る星がチラチラと姿を見せていた。そんな中、ある私室から漏れる声はこんな夜には似合わっていなかった。

ギンの執拗な口付けは海子の唇から忍び込み、中を聴覚を犯す。

「た、いちょう…」

漸く離された海子の唇は淡い灯に浮かび、てらてらと濡れており、更にギンは誘われた。

何も分からない…
どうして隊長は私なんか…

頭と身体は別々に働き、海子の紅く塗れた唇から差し出された紅い舌。

「良い子やね、おいで」

ギンはその舌に噛み付いた。顎を伝う滴をギンの白く長い指が拾う。

「可愛いらしいね、あかんよ。僕以外に、触らせたら」

はだけられた袷から触れていくギンのぬるりとした舌と、甘く身体を震わせる口付けに海子は身体を揺らす。

「隊長…」

白銀の髪に触れると、紅い眼が海子を射抜く。

「君は僕のモノ」

甘い言葉、海子はギンの手に先を期待していた、頭では否定しながらも身体は求めていた。

しかしギンは海子の胸元に紅い印を散らせると、またね、とのしかかっていた身体を離す。

「そん、なっ…」

そう言って海子は、袷をかき合わせ涙目で俯いた。

私は今…望んだ

「ほんならまた明日ね」

逃がさへんよ海子
手に入れる為なら


「おはようございます」

隊首室に顔を出した吉良は、ギンがぼんやりしているにも関わらず、いつもより口角が上がっていることに気付いた。

「おはようさん」

くるりと振り向けばニィッと笑い、元凶である大して重要でもない書類を吉良に手渡す。

「市丸隊長、上手くいきましたか」

全く、と呟きながらも微笑む吉良に悪い子やね、とギンは言った。

「海子は僕のモノ。手を出したらあかんよ」

ギンの隙のない牽制に吉良は苦笑いを浮かべた。

「分かりましたよ」

外の執務室では、動き始めた隊員たちが騒がしく業務に就き始めていた。


「どう?上手くいったかい」

隊員に書類の指示を出す海子にさり気なく尋ねれば、にっこり微笑む。

「はい」

透き通る甘い声を自分より低い位置から聞けば、隊長じゃなくても身体が囚われる気がすると吉良は思った。

「何でもするって言ったかい」

自分の机に戻る海子に書類を渡し、更に尋ねれば、はいと笑う。

此の子は怖いね
手に入れる為なら、自分を惜しまないんだね

「そう、気持ちは?」

核心を突く上司にくすりと笑い、海子は首元を曝した。白い項に、痛々しくも艶やかに美しく散っている紅い印に吉良は目を奪われた。

「市丸隊長の気持ちが分からないですけど、構いません。いつか伝えます」

正々堂々なんて知らないわ
私は隊長の為なら構わない

「離さないようにね」

離す気はないだろうけど、と呟けば、深く艶やかに笑む海子がそこにいた。


明るい橙は既に濃紺に飲まれ、ちらつく淡い星が浮かぶだけの夜空を締め切った窓から見上げるギンに吉良は尋ねた。

「気持ち、伝えないんですか」

何やろな、海子の考えなんて読めてるんよ
けど、簡単には言わんよ

「今以上に、僕から離れられへんようになったらね」

不安にさせるのもええね、さてどないしよか

「そうですか」

吉良の言葉にニィッと笑ったギンを照らすのは、月明りでも星明かりでもなく、淡く灯る蝋燭で、ゆらゆらと揺れる影が伸びる。

知っとるんかな
君の考えは全部お見通しなんよ
だから君は鳥籠、寧ろ牢に捕らえられた一輪挿し
誰も君を助けられんよ
相手が僕やからね


----
遅くなりましたが、リクエストの葉月様宛てです。修正がありましたら、葉月様に限りです。
睦月海藻


<<<策略は牢に

//
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -