あのな
慌ただしい隊舎、各々の机には原稿だの写真だのが積み重ねられて、いつ倒れてもおかしくはない。ここは東仙が無きあと、九番隊、仕切るは檜佐木修兵である。書類や原稿が飛び交うなか、訪問者が現われた。
「六番隊阿散井っス。檜佐木さんいますか?」
勝手知ったる場とキョロキョロと探す。
「阿散井副隊長、原稿ですか?」
九番隊席官海子海倉。
「海倉、檜佐木さんは?」
原稿を丸めながら尋ねる。
「副官室、って丸めちゃダメですよっ!」
何をしているんだとばかりに原稿を取り上げようとすれば、恋次はヒョイヒョイっと躱す。ニィッと笑うその顔は悪戯坊主。
「ちょっ、阿散井先輩っ」
身長差から飛び跳ねる海倉を見ながら、副隊長なんだけどと言う。反撃とばかりに、海倉は阿散井の脛を狙いながら言った。
「ルキア先輩に言いつけますよ」
目を見開き腕を下ろしかけた阿散井の隙をつき、原稿を奪う。
「あっ、テメェ」
側にいた隊員に原稿を手渡すと、海倉は檜佐木を呼びに向かった。しかしながら、必要はなかった。
「お前らなぁ」
呆れた目付きでさえも鋭い眼光に、刺青が特徴的な男、檜佐木修兵。
「檜佐木さん、躾をして下さいよ」
結局、蹴られたであろう脛を押さえながら言った。
檜佐木修兵は海子海倉の上司兼彼氏である。へえへえと流す檜佐木に阿散井はうなだれた。
「阿散井、悪いんだが一頁追加出来るか」
先程までに届けられた原稿を確認した檜佐木は、乱菊が持ってこないかもしれないと思った。げ、という顔をする阿散井にネタは好きにして良いからと見せかけの助け船。
「いつまでっスか?」
「明日、明後日な」
檜佐木は溜め息を吐いた阿散井をそのままに、何気なく周りを見る。
「海倉ならあっちスよ」
新しい原稿用紙を手に執務室を後にする。
翌日の昼下がり、相変わらずの足音を立てて来た阿散井。先日と変わらず、ズカズカと入る彼に、三席が副官室ですと告げる。開け放たれている戸を覗くと檜佐木はいなかった。
「おーい!待ってても良いか?」
どうぞと進められて腰を落ち着けた阿散井は、静かにしましょうねとむくりと小さな塊の動きに驚いた。、それは海倉だった。
「っ!何やってんだよ…」
二人がぐだぐたと他愛もない話をしている頃、九番隊廊下で部屋の主はもう一人の後輩と鉢合わせた。
「檜佐木さん、丁度良かった。原稿です」
書類も、と付け加えながら檜佐木の隣りを歩く。
茶ぐらい良いだろと言う檜佐木に」方ないですねと笑う吉良。檜佐木は馬鹿野郎と小突く。執務室に顔を出すと、副官室に阿散井がいることを告げられる。
「分かった、悪いんだがお茶頼む。人数分な」
吉良を促し、副官室に入ろうとすると、やたらと賑やかな声。お互い声の主は分かった。ぴくりと揺れた檜佐木の肩に、吉良は思わず笑みを浮かべる。面白いことにならないかなと思いながら、僕にだって楽しみは必要だからねと。
「ちょっ、阿散井先輩!何入れたんですかっ」
ゴソゴソと背中に手を入れる海倉。氷、と阿散井は飲み干したグラスの氷を入れていた。
「うそっ、うひゃっ冷たいっ」
きゃあきゃあ言いながら、もぞつかせる海倉の背後に檜佐木は立った。
「あ、檜佐木さん原稿です」
ケロリと答える阿散井に、吉良は馬鹿だなぁと漏らす。聞こえない一言。
「助かったわ、さっき十番隊を覗いたら、捕まってたしな」
「仕方ないっスよ、じゃ朽木隊長待ってるんで行きますね」
おお、と返事をした檜佐木に、阿散井は海倉を捕まえた。
「何ですか?」
「檜佐木さん、昨日も告白されてたぞ」
ニヤニヤしながら話す阿散井に、檜佐木はイライラを募らせた。勿論、吉良は楽しく傍観。檜佐木の眉間に皺が寄ったのを見ると、吉良は阿散井を引き止めた。
「檜佐木副隊長、モテるんですのね」
笑顔で見上げる海倉に少し毒気を抜かれる。
「面白そうだな」
にやつく阿散井に、吉良はやっぱり馬鹿だなと思う。次は君だぞと。
「氷は?」
「溶けました、で?」
「別に海倉が気にすることないだろ」
「だって、私が彼女だって知らない人多いし」
「分かったから気をつけるよ」
何を気をつけるんだと後輩二人組は思う。
海倉も分かれよ、と溜め息を吐く檜佐木。
「たかだか後輩相手だって、一応独占欲あんの」
「なにがですか?」
さっぱり分かっていない海倉に、思わず阿散井が口を挟む。檜佐木さんが言ってるのは、と言った阿散井は、自分かと気付く。
吹き出す笑いに振り返ると、吉良がアウトだねと笑う。
「すんません…」
「おぉ、分かりゃいんだよ。そうだ、朽木隊長に断られたアンケート結果のインタビューの許可、頼んだぞ」
怖々に謝る阿散井に檜佐木が、しれっと返すと、うげと呟く。そんな同期に吉良は肩を叩く。
「馬鹿だなぁ、檜佐木さんの性格を考えたら分かるだろうに」
口をぱくぱくさせ、意見をする阿散井を吉良は遮る。
「だから、今夜の飲み会は欠席だって乱菊さんに言うのは君だよ」
その結果の惨状を浮かべた阿散井。
「なんでだよっ!!」
「原因は君と海倉くん、だけど彼女は来られないんだから当たり前」
吉良の予想は当たった。
「檜佐木副隊長?」
ニッと笑う檜佐木に海倉は尋ねる。
「海倉が嫉妬するんなら俺だってするの、分かったか」
「あ!…はい」
やっと理解をする。
「今夜は泊まっていけよ。海倉に拒否権なし」
深く考えずに返事をする海倉を可愛いやつ、と思い振り返る。
「それから吉良、お前の寝顔ショット諸々、伊勢から貰ったからな。載せるぞ」
青ざめる吉良に対して満面の笑み。
「えっ、何で僕なんですか!?」
余計なことをしていない筈なのにと。
「楽しんでただろ」
「そんなぁ…」
うなだれた吉良に、阿散井は喜び半分、同情半分に肩を叩く。
副隊長と自分を呼ぶ声に向き直る。ありがとうございます、ヤキモチをしてくれてとあどけない笑みを浮かべ、何を言うかと思いきやの言葉である。
「バァカ、そんなもん、わざわざするもんじゃねぇさ」
伸びをしながら、後輩を追い立てる。
「さてと、吉良の写真選ぶぞ。独断と偏見で」
去り際に聞こえたこの一言に、二人は暫くの自分の未来に怯えた。
in.ninth.room
「吉良先輩は優しいから人気者ですよね」
「そうだな、気付かないからなアイツ」
「欠伸とお昼寝は必須で」
「後は、此処らへんだな」
「檜佐木副隊長って、あの二人にあんなこと言っても、きちんとやりますね」
「なんでだよ」
「写真は刀を振ってる方が多いし、朽木隊長当てに許可願を書いてます」
「はいはい」
「尊敬します」
「見直せよ」
「見直す程、残念な檜佐木副隊長は見たことがありません」
「そうか」
「修兵さんは別ですね」
「…ばかやろ」
⇒オマケin.third.room
「吉良副隊長」
「なんだい?」
「瀞霊廷通信見ました」
「へ?」
「この写真素敵過ぎます」
「ちょっと待って!変な写真ばっかりじゃ」
「確かに欠伸とお昼寝は可愛いらしいですけど」
「男の君に言われても」
「まぁまぁ、この刀を振っている写真を見て女の子らが騒いでますよ」
「へ?」
「これです」
「あ…檜佐木さんたら」
「檜佐木副隊長がどうかされましたか?」
「格好良すぎるよ」
「自分でおっしゃらないで下さいよ」
「違うよ…」
オマケin.sixth.room
「朽木隊長、実は檜佐木副隊長からの頼みなんですが、アンケート結果のインタビューを」
「やらぬ」
「そこをなんとか…」
「アンケートの内容を知らぬからな」
「へ?見てないんですか」
「振り回されるのは性に合わぬ」
「気にするんですね」
「何か言ったか」
「インタビュー内容のアンケートは、手料理をしてもらいたい男性ランキングですよ」
「恋次は入っているのか」
「確か10位に入ってます」
「5位から上を挙げろ」
「はあ…」
五位:斑目一角
四位:檜佐木修兵
三位:吉良イヅル
二位:浮竹十四郎
一位:朽木白哉
「そうか、斑目とは意外だな」
「そうっスね。男らしいけど、しっかり作ってくれそう、だそうっスよ」
「ふむ」
「あの…インタビューの件は」
「私がやらぬとしても困らぬだろう」
「いや…」
「斑目や浮竹に回せ」
「そんな」
「拘る必要があるのか」
「その、檜佐木さんに」
「檜佐木の怒りに触れたか」
「え…」
「大方、色恋沙汰であろう。くだらぬ」
「隊長…」
そんな朽木の机の上には、檜佐木からの許可願に了承の返事。
<<あのな
古//新