御守り
八番隊に珍しく来客ではなく、彼を呼び出しをしたのは伊勢。弓親が中に入ると、伊勢七緒による補佐、もとい監視下にある京楽春水の姿があった。
「綾瀬川さん、申し訳ありません。お呼びした理由はお分かりですね?」
眼鏡を上げながら、京楽からも目を離さずに告げる伊勢。流石の弓親も伊勢に太刀打ちできる訳もなく、持ってきた書類を差し出す。
外は緩く風が吹いているのか、葉が漂うように流れていた。それを羨ましそうに眺める京楽に弓親は苦笑した。
「海子さん?少し休憩にしましょうか」
人に隠れていたせいか、目に入らなかった海子が飛び上がるように立ち上がる。
「綾瀬川さんこれからは期日厳守でお願いします」
「努力します」
仕方ないと少しばかり諦め顔で、呼び出した海子を差し出す。
「海子さん、十五分したら戻って来て下さいね」
海子に優しく微笑み、それに応えた海子。後ろでぶうたれている京楽の声で我に返ったのか、キッと自隊隊長に挑みにかかる伊勢だった。
相変わらずだねと弓親は、廊下に出て窓に寄り掛かる。暖かい風が心地良い。
「弓親さんの刀の名前って藤孔雀ですよね」
弓親に応えることなく海子が、唐突に話を持ち掛けるのは今に始まったことではない。
懐に手を入れる海子。
「海子?何をしているんだい…はだけ過ぎているじゃないか」
弓親の心配を余所に、海子は小さな包みを取り出した。それは藤色で。
「こんなの要らないかもしれないですけど…現世に行かれるんですよね」
あぁ、そうか
「御守りで良いのかな」
恥ずかしそうに、不安そうに俯いていた海子が、ぱっと顔を上げる。しかし、よく見れば御守りの本体部分を吊り下げている紐の色は違った。
「この色は…」
「私、夕焼け色になる時が凄く好きなんです。で、前に読んだ本で瑠璃色だって書いてあったんです!」
へぇと相槌を打つ弓親。
だけど本当にそういう色を瑠璃色って言うのか…とどうしたものかと視線を彷徨わせる海子。
「海子が好きな色なんだね」
普通なら一つの色で寄るであろう部分を藍色と薄い青、朱色で編まれていた。
「綺麗な色合いにならなくて…御守りとも合ってないんじゃないかって…」
悩む海子の頭を弓親は撫でた。
「良いんじゃないかな、海子と僕の好きな色なんだから」
おずおずと顔を上げる海子の顔が赤くなっていた。
多分これが修兵とか吉良の彼女なら、深刻な顔なんだろうなと、理解ある海子に弓親の顔は自然に緩んだ。
変でしたか?と慌てる海子に弓親は言った。
「違うよ、十一番隊の僕の彼女がキミで良かったよ」
多分、彼女達だって泣きはしない
戦いに僕らのような命の賭け方をしないと分かっている
だけどこんな性分の僕なんだ
だからこのカタチが一番だ
そう、だから
「戦いに賭けているんだ」
思わず言った一言に、弓親自信が驚いた。それが弓親さんですからと笑う海子。そんな海子の体に手を伸ばす
。
「あ!いたいたっ!召集よ〜」
急に現れた乱菊によって宙に浮いた手を空しく下げる弓親。
「お邪魔だった?海子久し振りぃ〜!私ハゲを呼んでくるから先に行って、前と同じ所だから」
嵐のように去る乱菊に溜め息を漏らし、おいでと弓親に寄る海子をふわりと抱き締める。
びっくりしたようで、それでも少しずつ手を回す海子に、弓親は本日何度目だろうか頬を緩ませる。
「行ってらっしゃいです」
「行ってくる」
窓から吹き込む風が少し強くなった。、無くさないようにしなくちゃと弓親は海子に背を向けた。
そうだ、檜佐木は知ってたなぁ
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