始
言ってしまえば四番隊と十一番隊は犬猿の仲。そんな私があの人と会ったのも必然と言えば必然。
で、今は出張で十一番隊の雑務をこなす毎日。四番隊は雑務担当だとか言われているせいで、よく頼まれる。
正直なところ雑務が嫌いな訳じゃないし、十一番隊だと言っても良識のある人もみえる。
例えば、斑目三席だったり綾瀬川五席ぐらいか。。
そして今日はバレンタイン、今いるのが魔の巣窟十一番隊。
どうせなら女の子たちと楽しく交換したかったなとか思ってる。
見た目おっさん率が高いここに、若い女性隊員がくることは皆無。
だから、私の楽しみは無いけれどここ最近ソワソワしている彼等に義理をでも作ろうかと作ってみたりした。
「海倉、書類終わったかァ」
どたどたと足音をたて、戸を乱暴に開けるのは斑目三席。
「斑目三席、まだ終わりません」
静かに戸を閉め、溜め息をつきながら海子の机上の書類の山を取るのは綾瀬川五席。
「全く。どうもこの隊も浮き足立っているね?」
「あぁ、何だアレだろ?ばれ、バレン…ば」
真剣に頭を使っている斑目三席がおかしい。
「一角バレンタインだよ」
それだっ!!と手を叩きながら納得する。
「海倉さんは本命は渡さないのかい?」
急に話を振られた海子は返せなかった。
「ほぅ、黙ってるってこたぁ…やる奴がいるんだな。!誰だ、言ってみろって」
一角は机に体をのりだし、いないのだからいないと答える海子に疑いの目を向ける。
「斑目三席も綾瀬川五席も沢山頂くんでしょうね」
「僕はともかく一角は認識が甘いからね」
「何だそりゃぁ」
要は女の子が斑目三席を待っていようと気付かないでスルーしてしまうらしい。
しかしこの間、手が止まらない綾瀬川五席には感服だ。
「だけどよぉ、うちの隊長なんかにゃ野郎どもしか寄らねェんじゃねぇのかァ?」
既に書類を半分は片付けた斑目三席が言う。そんなに早いならやってくださいと思う。
「同感だね」
更木隊長か
「そういや海倉は何で来たんだよ?」
「休憩がてらにお話しますね」
そもそも四番隊に世話になる確率も、迷惑をかける確率も十一番隊が十三隊の中でダントツ。
私は、どちらかと言うと物怖じしない性格のせいか同僚からはよく十一番隊の治療を押し付けられていた。
本当に突然だった。
あの日は卯ノ花隊長は隊主会で、虎徹副隊長は午後から非番だった。
待合いの隊員たちの治療を終えて一段落した時に、伊江村三席にもう一人お願いだと言われた。
今思えば三席は私の顔を見なかったんだ。
ピリピリする霊圧の主が部屋に姿を現して、それが更木隊長とまともに会った日。
ブツブツ文句を言いながらもきちんと手当てをする箇所を差し出すのは、多分やちる副隊長のお陰と隊長の優しさっていうのかなとか思ったり。
「それだけかい?」
「たった一回ですよ?私も訳が分かりません…」
話し終えても理解不能なのは、私だけじゃない。
お茶のおかわりを催促する三席に新しくお茶を淹れて、一息。
「だけどよぉ何でテメェなんだぁ?」
そんな話をしていると噂の霊圧が向かってくるのを感じた。
「おぅ、テメェら!任務だ。流魂街の外れだ」
自分は行かないのか、つまらなさそうな更木隊長に、仕事をして下さいよと願ってみたり。
妙な気合いを入れて飛び出した三席に、しっかり隊長にお礼を言う辺りやっぱり綾瀬川五席は素晴らしいな、なんて呆けていると茶ァと投げ捨てに隊長は言う。
あたふたしながらもお茶を出すと、包帯を代えろとの指示。そう言って死魄装から肩を出した。
ほんの少しでも過ごせば、隊長に逆らえる人はいないって分かるもの。
救急箱から包帯を取り出して、巻き直して、並の男の人とは違う筋肉質な体に思わず目が奪われる。
手を動かしながら、そんなことを考えていると話し掛けられた。
「怖くねェのか?」
「何がですか?」
「俺だよ。一回だけテメェにやってもらっただろうが」
「そうですね」
「いつもは卯ノ花か虎徹なんだが、そいつらにしか看てもらったことがねェ」
「でしょうね。聞いたことないですもの。少し腕を上げて下さい。それにこんな性格ですから基本的に十一番隊の担当だったんですよ。だからですかね。終わりましたよ」
私がそういうと、そのまま黙って隊首室に入ってしまった。
どうしよ
やっぱり渡してみよう
せっかくみんなに作ったんだからと自分を励ますして意を決し、扉の向こうに声を掛けてみる。
入れと言われて中に入ると、何だァという不機嫌そうな声。
「あの、もしよろしければこれを」
そう言って、小さな包みを差し出した。
「何だこりゃァ」
「今日はバレンタインと言いまして…十一番隊の方々にもお配りしたんです」
「あぁ、やちるが言ってたな。一番好きなやつにしかやるもんじゃなかったのか」
包みを手の中で転がしながら聞く隊長が、知ってるなんて。
「そんな大層なお相手はいませんよ。」
その言葉に考え込んだ更木隊長は少しすると、私の前に立った。
「はっ!それなら来年は俺一人で十分だなっ」
え?
ニヤリと笑ったまま、私の頬に触れる。
こんなに骨張った手で何でそんなに優しく触れるの。
恥ずかし
赤くなった頬を見た更木隊長は、包みで私の頭をぽんっとはたき、言った。
「卯ノ花には海倉海子#の出張延長を頼んだからな」
それだけを言うと、やちる探してくると隊首室を後にした。去り際に不敵な笑みを浮かべて。
やられた
不覚にも格好良いと思う自分がいるよ
バレンタインなんて関係無い筈なのにさ
嵌まったみたい
しかも勝てる気がしない
バレンタインは片思いの終わりで始まりだけじゃないのね。
始まりのきっかけってか。
後日、結局期間通りに四番隊に返された私。
からかわれただけかと…自分でもびっくりするくらいに落ち込んでいた。
卯ノ花隊長に呼ばれていると言伝を貰い、失敗をしたのかと更に落ち込んだ。
「失礼します。」
「以前十一番隊に派遣をされましたね。更木隊長から延長の希望も受けましたが、やんわりと断らせて頂きました。貴重な人材ですからね。その代わり、十一番隊の面倒を見て頂けますか」
今までと変わらない要望じゃないのかなと不思議に思いながらも了承をするしかない。
「ただ、十一番隊に関しては更木隊長のみで構いません」
「はい?」
思わず聞き返す私に、ほほ笑みながら言った。
「交換条件です。更木隊長直々にですからね。よろしくお願いします。」
戻って良いと言われて部屋を出てから、参ったなぁと呟く私の顔は嬉しそうだったと荻堂にからかわれた。
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