金魚
ぱたぱたと足音を立てながら、風呂場から戻ってきた海子は恋次に声を掛けた。
「お風呂出来たよ?」
「あぁ、ありがとよ」
「恋次、先に入っておいでよ」
「ん、一緒でも構わねぇぞ」
恋次はニヤリと笑いながら海子の腰に手を掛けて、引き寄せた。そんな恋次に海子は、バカと言い放ち手をはたく。
海子の耳は真っ赤。海子、風呂は許さねぇんだよなぁと苦笑しながらお風呂場に向かった恋次。
風呂から上がり、ホカホカと湯気を纏いお先と声をかけて海子の元に行くと頬杖をついてぼんやりとしていた。
「どした」
頭をがしがし拭きながら隣りに腰を下ろす。海子が見ているのは夏に店で買った金魚。尾びれがひらりと漂う。その先を海子は指で追う。
「ちょっとね」
それだけ言うと金魚に意識を向けた。何だか嬉しそうに金魚を眺める海子の意図が掴めない。あまりにも気になるから、なぁと声を掛けた。
「どしたの?」
「あぁ…いや何で指で追うんだ?」
そういうと海子は俺に向き合う格好で手を伸ばしてきた。頭に乗せていたタオルを取り、髪に触れる。ほんの少しだけ恥ずかしい気がした。
俯くと影が覆い被さった。目の前には海子の胸、抱き締められたことに気付く。
「髪の色…」
「あぁ?」
「綺麗な赤でしょ」
「おぉ」
男で髪を褒められて慣れている奴がいたらお目にかかってみたいもんだな…と恋次。
「髪がどうした?」
「恋次が髪紐を解くのは仕事場では無いでしょ?」
「まぁな」
恋次の毛先を弄りながら海子は続ける。
「こうやって広がる髪もよっぽどのことがないと有り得ないでしょ」
ぽかんとした恋次が海子の顔を見上げると天井、背中には床。倒されたのか?と暫くして気付く。
「あのコの尾びれも赤いでしょ?ふわふわしてたの。似てるなぁって」
満面の笑みで覗き込む。
「あのコを見てたら髪紐を解いた恋次の髪に見えちゃってね。やっぱり綺麗だ」
そう言いながら俺の髪を手に取り口付ける。
体が海子を欲した。恋次の手は分かっていた。ぐいっと海子の後頭部を引き寄せ、口づける。深く、啄む口づけをして解放する。こんな格好は海子にしか見せねぇぞとばかりに。
海子は恋次を起こした。風呂に入る仕度をして金魚鉢を見つめると、レン大好きだぞと微笑む。
「さっきはあんなこと言ったけど、恋次の髪が何色でも良いや。大好きなのは恋次だからね」
「な」
今の俺は確実に湯上りのせいじゃねぇ、海子のせいで赤いはずだと笑う。風呂から上がったら覚悟しとけよ、と風呂場から聞こえる歌声に誓った。
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