4月2日 (鶴丸国永)
「どうだ、驚いたか?」
『わぁ…本当、うん、驚きました』
「だろー?」
…始まりは朝餉のあと。鶴丸さんが珍しくドッキリ無しの会話を持ちかけてきた事から始まる。
「後で、主の部屋に行ってもいいか?時間があればでいいんだ」
『え?ああ、はい空いてますけど…』
「そうか、なら行く」
本当にいつものドッキリが無いものだから、後でどんな酷いイタズラが出てくるのか不安だったのだけれど、彼の物腰は柔らかく、これぞ年輩者の風格かと一人勝手に納得し、ポカーンとしていた。
そして話していた通り、自室へ戻って少し経った頃、鶴丸さんは部屋に小さな箱を持って現われた。
「ほら主。これやるよ」
『あ、ありがとう!開けていいです?』
「もちろん」
開封するよう促されると、私は白を基調とした箱を開け、中の和紙の包みを開いた。
すると…。
中には春らしい刺繍の施されたハンカチが入っていた。下地はやはり白で、刺繍は薄い桃色や、淡い黄色。なんだか鶴丸さんらしいデザインのものだった。
そしてそのリアクションは冒頭のものになり、鶴丸さんは大変満足気である。
『なんだか、私が使うのが勿体無いですね。綺麗すぎるというか…私より鶴丸さんの方が似合う気がします』
「そうか?んなこと無いと思うけど、俺こそ主に似合うと思ったんだが」
光忠にも相談したんだ、という彼は何とも誇らしげ。やはりセンスに関しての相談は、燭台切さんに聞けば間違いないと言うのは、彼らの中でも共通の認識なのか。
「ってことは、主と俺もお似合いって事だな」
『いきなり話が飛びましたねえ』
「だってそうだろ?…ま、そういう事にしとこうぜ!」
『そしてなんと強引…』
にししと綺麗に笑う彼は、本当に妖艶というか、なんと言うか。近くにいるだけで鼓動が早く波打つから、本当に心臓に悪い。もし早く死んだら、きっとこの人の所為だ。たぶん。
『でも、なんでいきなりプレゼントなんです?すっごく嬉しいんですけど、なんか気になっちゃって』
「ん?あぁ…」
そう言って、考えるように語尾を濁す鶴丸さん。
彼らの刀剣男子に私はいつもの指示を出し、その仕事をこなしてもらっている身としては、もらいっぱなしではなんとも歯がゆい。というか、貰っていて正直なところ辛い。理由さえ聞ければお返しの算段を練れるのだが。
口の重かった鶴丸さんは、ゆっくりながらも恥ずかしそうに言葉を紡いでくれた。
「…昨日、4月1日だったろ」
『ん、そうですね。それで鶴丸さん大はしゃぎだったじゃないですか』
なんせエイプリルフール。この鶴丸さんが騒がない訳がない。
「おう…それで、その後、今剣達が話してるのを聞いてさ、4月2日は、昨日とは逆に、本当の事しか言っちゃいけねーらしいんだってよ」
『へー、初耳です、それ』
普通に初めて聞く逸話に耳を傾けていると、鶴丸さんは、また一層恥ずかしそうにごにょごにょと、だから…、と口元で喋っている。
「…日頃の感謝を、だな。いつもならイタズラの一環として取られるだろうから、この機会に…って訳で…」
『…』
そういう事かと納得した反面、私はとても驚いた。まだ半人前な自分だ。彼らや彼に不自由な事ばかりさせているだろう。にも関わらず…。
それを聞いた私は、なんだか、すごく心の奥から温かくなって来て…。
「ちょ、おい、泣くなって!」
『うぅ…だって、嬉しいんですもん…』
自然とポロポロと涙が溢れた。
審神者になって、殆どが辛い事だったり、初めてで戸惑う事ばかりだったけれど、今、この瞬間が初めて、私の審神者という肩書きに嬉しさを覚えた瞬間だった。
『ありがとう…ございますっ。本当に、大切に使いますっ』
「…おう」
珍しく照れて、白くて綺麗な肌を赤く染めながらも、鶴丸さんは私の頭をそっと撫でてくれていた。
神様からの慰めなんて、本当に図々しい事かも知れないけれど、ただ今は、彼に甘えていたい気分だった。
(その後、短刀達がこの光景を見て鶴丸さんのことをいじめっ子呼ばわりしていたのは、薬研君が教えてくれて初めて知りましたとさ)