後悔の嵐 ( 和泉守兼定)

この本丸では、先日とうとう最後の一刀だった短剣、平野藤四郎さんが加わったことにより、今ある刀剣男子全てが揃ったこととなった。

揃ったことは喜ばしいことだが、少々の悩ましきこともある。良いことあれば、悪いこともまた然りであるのだ。

…突然だが、兼さんこと和泉守兼定さんがこの本丸に来たのは、結構最後の方だった。最初の方に来ていた堀川さんにはとても悪い事をしてしまったのだが、こればかりはどうしようもなく、ほぼ運の中行われる鍛刀に文句はつけられなかった。
内心、自分の審神者としての力が十分ではないからかもしれない、と思っていたのは、全てが集まった今だから言える事。その当時、本当に次の日が怖かったのである。寝る時と短刀たちと遊ぶことだけが心の安らぎであった。

話を戻して、兼さんの事である。
冒頭言った悪い事とは、最近知り合ったばかりのため、中々仲良くなる機会がなく、かと言ってどう仲良くなるべきかもわからないと言う事だった。

元々器用な人間関係(此処ではなんと言うべきか)を築くことを苦手としていた自分だ。無茶をできる器量もない。なおかつ、一番致命的と言えるのが…兼さんへの第一印象である。悪い人ではない、と言うより、いい人であるとわかる。それでも。なんとなく、あの強気な心意気は、私が結構苦手とするグイグイタイプの人では無いだろうか…。

それを、母。もとい、燭台切光忠さんに相談した所。


「なんだ、そういう事ならまずは堀川君に聞いてみたら良いんじゃない?」


と、なんとも的確な指示を頂いた。

そのアドバイスを無下にはしないため、私は意気込んで居間に行く。
よし、がんばるぞ!!


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そう意気込んだのは数時間前。


「あ、こら兼さん!お煎餅食べ過ぎですよっ」

「っるせーなぁ。いちいちいちいち…国広、俺に構ってくんな!」

「って言ったって兼さん、一人じゃまともに蜜柑も剥けないでしょ!」

「むけるわ!!バカにすんなよっ!」

『…』


目の前でずっと夫婦喧嘩を見せられて、なんでしょうか。これが充実していると言う人達なんでしょうね。
主、主様と呼ばれる事が多くなったからか、こうもスルーされるのの対処の仕方を忘れてしまった。いやはや、人間の老化は速い。

いつ話しかける事が出来るか待っているものの、この仲睦まじい雰囲気を崩す勇気も気力も起きることがなく、静かに自室へ戻った。








『はぁぁぁぁー…』

またそれから数時間。
お上に渡す書類を作成し、机に突っ伏す。活字ばかりで、目も肩も凝る。
こんなときは、光忠母さんのあっつぅいお茶が飲みたくなる。
そろそろ夕餉の支度が始まる頃かなぁ、と頭の端で考えつつ、疲れた目を休めるように瞼を閉じる。後ろの壁に体を預け、私はそっと、意識を手放した。


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『ん…ん?』


ああ。私、眠ってしまったのか。今日あったかかったもんなあ。
そんな事を考えながら日の傾きを見ようと瞼を開ける。すると目の前には紅がまず見えて、夕暮れだなぁと意識をとり戻していく。
にしても今日は紅いなぁ…


「おう、起きたか」

『へ』

「よっ」

『か、かかかかか、兼定さんっっ!?』

「んだよ、そーだよ。流行りのイケメン様だよっと」


それ、山伏の真似か?なんて言う兼定さんに驚き、背筋をピッと伸ばして起き上がる。…起き上がってわかったことなのだが、私はいつの間にか兼定さんの胡座の上で寝てしまったらしい。恥ずかしや。


『あ、えと、スミマセン…足、しびれてません?』

「いんや、大丈夫だ」

『そ、ですか…』



そして訪れる静寂。
…本当に何話せばいいんですかね。緊張の仕方が酷い。長く居る子達とはもっとナチュラルになれるのだけど、やっぱり、慣れないものは慣れない。


「あ、そういや」

『?』

「茶、光忠が持ってけって言ったから持ってきたんだけどよ…」


そう言って机に置かれていたお盆を覗き込む兼定さん。
ああ光忠母さん、そこまで気を回してくれていたのね。


「…冷めてんな。ちょっと待っててくれよ、光忠に頼んでまた注いで貰ってくっから」

『あ!いえ!お気になさらず!…良ければ、冷たいの飲ませて下さい』

「…いいのか?」

『はい。寝てしまったので、冷たいもので喉を潤したい気分なんです』


そう言うと、二人で縁側に腰掛け、二つのうちの一つの湯呑みを渡してくれる。



ゴクリと一口飲んで、庭を見てほっこりする。
言葉は無いものの、さっきほど緊張はしなくなっていた。これが光忠母さんのお茶の力か。


「…主さんは、いつもそう優しいんだな」

『え?』

「いんや、さっきもそうだけど、いつも見てて思うんだよ。…刀である俺たちは、使われるものだ。それなのに主さんは気にしないで、いつも丁寧な対応してるだろ」

『いや、それは…』



生きた長さと言うものや、ただの小娘と神様と言う差が生み出した必然的なものです。
そう、言いたかった。
でも、それを言うと今よりもっと自分が未熟に見えてしまいそうで、怖くて、口に出せなかった。

それを察したのか、兼定さんはそれ以降言葉を重ねることはなく、ただ、優しく、私の頭を撫で続けてくれた。

それでやっとわかる。私は、とんでもなく優しい人に、一方的に線を引いてしまっていたのだと。

撫で続けられている中、私はただずっと、同じ言葉を繰り返していた。


『ありがとう、ございます…っ』







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