ふくつーは天敵
「で、どうしたんだ?」
数学準備室。
来客用のソファーに座った鏡慈先生の膝に乗っかって、自分より一回り大きい体をぎゅっと抱き締めている俺。頭を撫でてくれる鏡慈先生の手が優しくて、泣いてしまいそうです。
あと、先客だった珠洲城清(すずしろ・せい)先生の嫉妬にまみれた視線が痛いです。ごめんなさい。でも、今は心がズタボロなんです。優しさが必要なんです。
「……避けられてるの」
「天野にか?」
「うん。声をかけても無視されるし、生徒会室に行くとすぐどっかに行っちゃうし……」
さすがにここまであからさまだと、俺も傷付くよ。会長を傷付けてしまったことに罪悪を感じているので、余計に胸が苦しい。
俺のせいであんな態度を取らせてしまったのかと思うと、副会長が部屋を訪ねてきた時に戻りたいと切実に願ってしまう。
あんな顔をされるくらいなら、食われちゃった方がましだったよ。
「もう一週間か。さすがに拗ねすぎだろ」
「違うよ。一週間じゃなくて、八日だよー」
「お前、フラグを回避したがってたじゃねーか。これで距離をおけたんじゃねぇの?」
「そうだけど、でも、俺は……」
会長を傷付けてまで、フラグを圧し折りたいとは思ってなかった。自然と会長の興味が他人に逸れて、俺はただの後輩に格下げになるのがベストだったのに。
会長ときちんと話し合いたいとは思うんだけど、今のままじゃいくら言葉を尽くしても信じてもらえそうにない。
「あんまり悩みすぎんなよ。ガキじゃねぇんだ、時間が経てばあいつの頭も冷えるだろ。それに、お前は悩むとすぐ胃にくるんだからな?」
「う゛ー」
そうなのだ。俺はストレスを感じるとすぐ胃にくる体質で、実はすでに小さな痛みを感じ始めている。
ひどくなるようなら、深雪先生のとこに胃痛薬を貰いに行った方がいいだろう。解決する兆しが見えない今、胃の痛みは日に日に強まりつつある。
「また神経性胃炎で入院なんて、洒落にもなんねぇぞ」
「わかってるよー」
「……話が見えないんだが、海原は胃炎で入院したことがあるのか?」
今まで沈黙を守っていた珠洲城先生が、疑問を堪えることができずに口を開いてきた。
それに伴い鏡慈先生の機嫌が急下降。さっさと出てけよ、とぶつぶつ呟いている。
「そうですよー。小学生の時と、中学にあがってすぐの時に病院にお世話になってるんですー」
小学生の時は、両親の離婚騒動が原因で。中学の時は慣れない寮生活で、ストレスに倒れてしまったのだ。
離婚騒動は俺が倒れたことにより、両親も反省したのか結局たち消えになった。むしろ、以前よりも仲がよくなったくらいだ。
中学の時は、退院したあと同室者の子がなにかと気を遣ってくれたので、なんとか寮の生活にも馴染むことができた。その子っていうのは、俺の親衛隊の副隊長さんなんだけどね。
「あとで、深雪のところに行っとけよ」
「うん」
そうするね、と頷いて微笑んで見せた。自分で言うのもなんだけど、上手く笑えた自信がない。
俺は、ちゃんと笑えているだろうか。
それすら、よくわからない。
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