【葛城side】それは、美しくも残酷な真白き闇
騙されたことに気付いたのは、敵対するチームの奴らが不敵な笑みを浮かべた時だった。
数日前に得た情報は、タウゼント側の勢力を二手に分けさせるための餌だったらしい。少し知恵を働かせれば気付けたことだった、と葛城は今更ながら歯噛みした。
敵のアジトに向かった仲間たちがはめられたことに気付き引き返したとしても、ここへ来るには最低でも三十分はかかるだろう。
知らず、葛城は唇を噛み締めていた。ここで敵チームの総戦力とぶつかれば人数を二手に分けている分、こちらが圧倒的に不利だ。個々の戦闘能力で勝っているとはいえ、多勢に無勢。どう考えても勝てる要素が見つからない。
――だが、最悪の事態は、奇妙な人物の登場によって回避された。
さらりと風に揺れる銀髪。そして、赤い瞳。月の光に凄然と照らされた姿は、誰もが思わず息を呑んでしまうほど美しいものだった。
そして、銀色の獣は見事としか言いようのない動きで、敵チームの男を負かした。
獣は告げる。
「――生きることを楽しめよ。せっかく、この醜くも矛盾を孕んだ美しい世界に生まれたんだから」
どくり、と葛城の心が高鳴った。
笑みを浮かべるその顔から目を離すことができない。
それは、太陽のようにけっして眩しい光ではなかった。むしろ静寂な月光を思わせる、心に沁み込んでくるような淡い光に似ていた。
その時、確かに己の中でなにかが変わったのだと思う。
だからこそ、あとから現れた阿修羅の総長――あの男に、彼を渡すわけにはいかなかった。
あの男の隣に彼が立つと想像するだけで、全身の血が沸騰するような怒りに襲われた。
いやだ。
誰にも渡したくない。
気がつくと、葛城は彼の肩を掴んで引き寄せていた。驚いたようにこちらを見上げる彼に、自然と口角が上がった。もっとその瞳に自分を映してほしい。それは、純然たる欲求。
だが、すぐに彼は奪われた。
新たに現れた男によって。男に抱かれぐったりと目を閉じる姿に、胸をえぐられた。
――なぜ、そこまでして俺たちを助ける?
――なぜ、俺の前に現れた?
疑問はとめどなく溢れた。
だが、心の底で、そんなことはどうでもよいと思う自分がいた。彼と再び会えるのならば、答えなんていらない。彼をこの腕に抱くために、絶対に捜しだしてみせる。そう、あの男よりも誰よりも早く。
「……白夜」
祈るように、葛城は彼の人の名を呟く。
恋い願うように、幾度も、幾度も。
白夜――それは、美しくも残酷な真白き闇。
第一章・了
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