関係はありません
「いや、赤の他人だ」
面識すらない。ただ、こっちが一方的に知っているというだけ。ぽかんとした不良の顔は愉快だったが、そろそろ自分が仕出かしたことの重大さを教えてやろう。
「赤の他人だが、人が傷付くと知っていて、それを見逃せるほど腐っちゃいないもんでな。ちなみに、これはお前たちを助けることにも繋がるんだぞ?」
「んだと、コラ!」
「一週間前、お前らが手を出して返り討ちに遭ったガキは“炎鬼(えんき)”という。阿修羅の特攻隊長だ」
お前らでも、阿修羅の名はわかるだろ?と問えば、男は目に見えて顔を真っ青にした。そして、その視線は地面に倒れている少年に向けられる。
「ご名答。そいつも阿修羅の幹部の一人だ」
ひぃ、と悲鳴を発した男は、その場に尻餅をついた。自分たちが誰に喧嘩を売ったのか、ようやく理解したようだ。
「報復はされるだろうが、まあ半殺しで済むんじゃないか?よかったな、皆殺しじゃなくて」
とりあえず、こいつは貰っていくぜ、と言い置いて、俺はトンファーをしまうと少年――陸鬼の腕を自分の肩に回した。
警戒混じりの視線を向ける少年を無視し、俺はさっさと倉庫をあとにする。
そして、近くに停まっていたスポーツカーのドアを開けると、後部座席に陸鬼を押し込んで、俺も隣に乗った。
「おかえり。無事だったようだな」
「ただいま。まあ、あの程度なら楽勝」
運転席からこちらを振り返ったのは、サングラスをかけた二十代後半の渋めのおっさん(というと怒られるが)――北原総司(きたはら・そうじ)だ。
俺がアルバイトしている探偵事務所の所長でもある。空手道場の師範もやっていて、その繋がりでスカウトされた。
今回、移動手段が必要だったので、車を出してもらえるように頼んでおいたのだ。
「……俺を、どこに連れて行くんですか?」
唇を切っているせいで、陸鬼は喋り辛そうだった。確かに、見方によっては誘拐犯みたいだ。
陸鬼の脳裏は、きっと面白いくらいに混乱していることだろう。
抵抗しないのは、窮地を救ってもらったという意識が強いせいか、それとも怪我のせいで満足に動けないせいか。
「阿修羅のアジト。お前たちがよく集まってるバーがあるだろ。そこまで送って行ってやるよ」
陸鬼の目が大きく見開かれた。この返答は予想外だったのだろう。俺が手を伸ばせば、陸鬼の体がびくっと揺れた。
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