気付かれていたらしい


「――トモ君!」

 肩で荒い息をついている佐久間に、俺は慌ててソファーから立ち上がった。駆け寄ろうとすれば、それよりも早く佐久間の方が突進してくる。

「制裁、されそうなった、って」

「大丈夫。未遂だったから」

「でも……!」

 俺の腕を掴んでいた佐久間が、苦しげな表情を浮かべた。きっと、自分のせいだと勘違いしているのだろう。

 こんな顔をさせてしまったことに、激しい後悔の念を感じる。怒られる覚悟はしていたが、相手を苦しめることになるとは考えてもみなかった。

「ごめん。今回は、僕の不注意が招いたことだから」

 だから、自分を責めないでほしい。宥めるように佐久間の背中を摩れば、渋々とだが腕を放してくれた。しかし、その双眸には薄っすらと涙が滲んでいる。

「なあ、そいつってトモの親衛隊長だよな?」

「え?そう、だけど……」

 肯定すれば、白崎の鋭い視線が佐久間へと向けられた。

「親衛隊って、崇拝対象を守るのが役目なんだろ。なのに、どうしてトモが制裁を受けてんだよ!」

 佐久間の肩が大きく揺れた。それに、俺は内心で舌打ちする。まさか、俺の安易な考えのせいで佐久間が責められることになろうとは。

 もっと考えてから行動すべきだったと後悔しても遅い。

「志信君、これは僕のせいで」

「でも、そいつがもっとしっかりしてたら――」

「シノ」

 低い声が室内に響いた。驚いて視線を向ければ、風紀委員長のデスクに着いていた西園寺が、白崎に冷ややかな視線を向けていた。

「そいつはよくやっていた。それは風紀も評価している。今回は、渡部個人が招いた事故だ。勝算はあったようだがな」

 ……どうやら、俺の考えはお見通しだったらしい。意味がわからなかったのか、白崎は眉を寄せ首を傾げている。

 澤口と神埼は納得したように頷いていたので、ばれてしまっただろう。仕事をしながら聞き耳を立てていた尾畑は、白崎と同じように首を傾げていた。

 ちなみに佐久間は……俺にだけわかるように、怒りの表情を浮かべていた。これは部屋に帰ったら説教コースだろう。自業自得なので、甘んじて受けようと思う。

「八つ当たりはよせ」

「う……わかった。きついこと言って、ごめんな」

 唇を噛み締め、白崎は潔く佐久間に頭を下げた。それに、佐久間は俺にしか聞こえない声で、「ぐふっ、お、王道君に謝られちゃった……!」と呟いていた。腐男子め。

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