in風紀室


 横抱きにされたまま風紀室へ入れば、室内がざわついた感じがあった。

 そりゃ、風紀委員長が顔を隠した誰かを横抱きにして入ってきたんだから、驚くなという方がむりだろう。早く下ろしてくれ、と密かに祈っていると、「下ろすぞ」と声が聞こえた。

 西園寺の腕から解放され、自分の足で立ち上がると、頭からかけられていた上着を外される。急に明るくなった視界に目を眇めれば、聞き覚えのある声が響いた。

「トモ!?」

「……志信君?」

 そういえば風紀に入ったんだよな、と妙に納得していると腹部に衝撃があった。見れば、今にも泣き出しそうな白崎が俺をぎゅうぎゅうに抱き締めていた。あれ……?こんなの、前にもなかったか?

「どうしたんだよ!?なんで、制服がこんな……!って、怪我もしてる!?」

「あ、あの落ち着いて。未遂だったから、ね?」

「未遂って……!?どこのどいつだ!」

 おそらく反省室へと連行された奴らを殴りに行くつもりなのだろう。

 顔を怒りで真っ赤にした白崎を、俺は覆い被さるように抱き締めることで引き止めた。さすがに、風紀委員が無抵抗の相手に暴行を働くのはよろしくない。

「僕は平気だから。ね?」

 はじめはじたばたと暴れていた白崎だったが、しばらくすると落ち着いたのか大人しくなった。背中をぽんぽんと宥めるように叩いて、俺は体を放す。

「あの、聴取はどこで受ければ?」

「その前に着替えだ。シノ、予備のワイシャツを出してやれ」

 俯いていた白崎が、弾かれるようにして別の部屋へと走って行った。そして、数分もたたずに新品のワイシャツを手に戻ってくる。

「ありがとう、志信君」

 それを受け取って、俺は部屋の隅に移動した。制服の上着を脱ぎ、ボロボロになったワイシャツに手をかけようとしたところで西園寺から制止される。

「待て。お前、ここで着替えるつもりか?」

「……いけませんか?」

 振り返れば、なぜか頭痛を堪えるような仕草をした西園寺と、顔を赤らめた白崎。それと、気まずげに顔を逸らしている風紀委員らの姿があった。そいつらも、もれなく頬や耳を赤く染めている。

「はぁ……。シノ、仮眠室に案内してやれ」

 白崎に引き摺られるようにして、俺は仮眠室に押し込まれた。ここで着替えろということなのだろうが……。

「男同士なんだから気にしなくてもいいのに」

 この学園の風潮に毒されすぎじゃないか?特に白崎。体育の授業で制服を着替える時だって、普通に上半身をさらしてるだろうが。俺はお前がトランクス派だということも知ってるぞ。

「はぁ……」

 なんだか、精神的に疲れた気がする。とりあえず、さっさと着替えて聴取を受けよう。先ほどの光景を頭から追い出して、ボロボロになったワイシャツを脱いだ時だった。

 ゴトン、と音がして視線を向ければ、顔を真っ赤にしてこちらを指差すいつかの不良の姿があった。

 だから、なぜ顔を赤くするんだ。

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